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 あ、あああああ!やっちゃった!やっちゃった!ひどく冷えた頭の中、狂えるなら狂ってしまいたかったと思うほど頭はさえざえとしている。頭の天辺から爪先までばしゃーんと水を掛けられているようなあのこの泣き声が聞こえるようだ!

 「……ごめん」

 血塗れで家の扉を開けると驚いた顔をして悲しそうに目を伏せると(それは本当に一瞬だった)神楽は笑ってお風呂沸いてるとだけ言った。うん、ありがとうと震えそうな声で玄関を上がると晩御飯のいいにおいがした。そういえば俺が左手に持つ白かった紙の箱は今や真っ赤だが、中身を思い出す。中まで汚されていないといい。

 箱を脱衣所に置くと風呂場に入り出だしの冷たい水をいきなり被る。心臓が止まりそうだったがすぐに生ぬるく熱く変わっていった。磨りガラス越しに神楽が俺の服を片付けているのが見える。申し訳なくなった。せめて今日は誰も傷つけないと約束したのに。

 「神楽」

 「何ネ」

 「誕生日おめでとう」

 「………………」

 水音だけがする。タイルにばちゃばちゃばちゃ、足首に跳ね返る水滴。視界も感覚も何もかも濡らしていく。

 「……ありがとう」

 磨りガラス越しの小さな声に何もかもが許された気がした。そんなことはないだろうけど。

 「だって今日はおめでとうの日だから」

 食卓を囲んで神楽が言う。うん、そうだねと俺は笑う。血のにおいのしないさっぱりした服を着て、肉じゃがを食べる。誕生日らしからぬメニューだがケーキはある。こんな家庭だってあるだろう。

 「来年は、どんな誕生日を迎えるんだろうね」

 「その前に兄ちゃんの誕生日があるヨ」

 「そうだった」

 味のよく染みた馬鈴薯に涙をこぼしかけた。今だけでも神楽が笑ってくれるなら、それで。
 甘いのが苦手なはずなのにケーキを早く食べたいなあと思ったのは、初めてだった。


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 ぐらたん誕生日おめでとう!



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