more... 指に付いた血を洗い流そうとしたとき、左手の人差し指の爪かずるりと剥がれ落ちた。 血が苦手なアリシアはぐっと眉根を寄せている。本来ならすでに大粒の涙がこぼれ落ちているだろう。しかし、アリシアはもう泣けない体になっている。少しずつ腐敗する少女は呆れたように肩を落とした。 傍らのジルがアリシアの手を取り、尋ねる。 「痛い?」 アリシアは首を横に振り、困ったように微笑む。 「もう痛くないから、怖いのよ」 「そう」 ジルはアリシアの爪を拾い、手のひらに置いた。 「マニキュアみたいで綺麗じゃない」 「マニキュアなんてしないくせに」 爪の奥に付いた赤黒い斑点をジルは嬉しそうに見つめる。 「宝物だ」 ジルは恭しくハンカチに爪を包んだ。大人びたジルはこんなときだけ少女の顔になる。アリシアは照れくささを隠すように言った。 「それじゃ、手が拭けないじゃない」 爪の話 06/24 03:20 back |