――もしも、私が居なくなったら、どうする?
いつだっただろう。不意に口をついた言葉はそのまま少女の耳に届いてしまった。
窓もカーテンも締め切って、ガスストーブの暖気が部屋に充満し、頭がぼうっとしていたせいもあるだろう。炬燵を挟んで向かいに座る少女は硝子玉のような目を見開き、不思議そうに私を見る。
新しく封を切ったお菓子の袋から、甘いチョコレートの匂いがした。おもむろに口に運んだが、甘いのかどうかわからない。口の中で機械的に噛み砕き、飲み込んだ。
考えるときも、少女は私から目を逸らさない。少女の瞳は、いつも私を見透かしているようだ。けれど、何故か不快ではない。少女がこの世にあるべきものではない、異質な存在だからだろうか。
真っ直ぐに切り揃えられた髪も瞳も透明さと輝きを放ち、人々を魅了する。少女の無垢な姿と相まって、誰からも愛される存在になりえるだろう。だが、私は彼女を愛するであろう全てを遮断し、独占している。そして、彼女もそれを望む。狭い箱の中でも、この部屋の中でも、喜んで受け入れてしまう。おかしな関係がずっと続いている。
「私もそこに居ないです」
しばらくの沈黙を破った声は確信に満ちていた。
「じゃあ、どこにいるんだい?」
胸の奥がすっと冷たくなっていた。
頭の中で、彼女の背中が遠ざかっていく。追いかけることは許されない。死が私を捕らえ、離さないからだ。
「おばあさんのとなりに居ます」
遠ざかっていく背中が急に振り返り、笑顔でこちらに駆け寄るようだった。
実際、少女は私の手を取り微笑んでいた。冷たくても、私は少女の手を確かに感じていた。胸の奥が、この部屋のように熱を帯びていく。
「ずっと一緒です」
「ストーブ、一旦消そうか」
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