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 フィネスを過去から現実に引き戻したのは、一層激しさを増した雨音だった。

 祈っていた時間はそれほど長くなかった。アマリリスは立ち上がり、脇に置いていた頭部をすっぽりと被った。馴染みある宇宙服のようなアマリリスが出来上がる。
 帰る前に、アマリリスは持ってきた布で木製の椅子を拭った。そして、また静かに扉を閉めて、雨の中を歩いて行く。暗闇に飲み込まれるように、消えていった。



 アマリリスの出ていった正面扉を開けると、銀の表道が黒く歪んで見えた。
 アマリリスが素顔を取り戻す日を、フィネスは人知れず祈り続ける。アマリリスのありのままでいられる場所が冷たい雨の中にしかないように思えるからだ。哀れで優しい娘に、どうか暖かな陽射しと祝福を。壁のある街では儚い夢であったとしても、それを願わざるをえなかった。

 強い雨を咎めるように、フィネスは手を伸ばす。しかし、指先が濡れる前に引っ込めた。
 フィネスは邪念を振り払う。神の教えに背くような真似はできない。この雨も、何もかもが神の意思によるものだ。この世界を疑ってはならない。自分の足場が揺らいでしまう。聖職者の信念は強固なものでなければならない。
「神は我々を守り給うた」

 フィネスは自らを戒めるように呟いた。
 雨はまだ止むことはない。
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