一人一木回想録 現在 - 2


 ***


「姐さんって何でそんなに狩りが上手いんすか?」

 アシャの一言にベニアの視線が動いた。

「何が言いたいわけ」
「あっ、やっとこっち向いてくれた」
「だから何なの」
「そりゃこっちのセリフですよぉ、急に黙り込んじゃってどうしたんすか?」
「何もないわよ、うるさいわね」

 ベニアは倒木に腰掛け、根々と呼んだ花を見ながら牛の干し肉を食んでいた。アシャが差し出してきたみかんの皮を「結構よ」と冷たくあしらう。結局ピクニックになってしまっている気がする。

「おいらにも狩りの仕方を教えて下さいよ」
「イヤよ」
「えー」
「狩りってね、見るよりもずっと難しくて気を遣うの。アンタが考えるよりもずーっとね」

 ベニアは水筒の葡萄酒をあおる。

「獲物がウサギなら、たった一本の矢で仕留めなきゃならない。なるべく苦しませずに、可食部を多く残して内臓に傷を付けないように狩れるまで、何度も何度も失敗するの。苦しみながら弱っていくのを見て、とどめを刺す勇気もなくて、でも結局はそれを捌くしかなくて、内臓が飛び散って味が悪くなった肉を食べる――そんなことを何度も繰り返してようやく上手く狩れるようになる」

 あの日のウサギ。懸命に首元を狙ったのに一度で仕留めることができず、集中を乱したまま放った二本目の矢は、腹の真ん中に刺さってしまった。結局、ウサギを苦しませた上に、自分は血が回って生臭くなった不味い肉を食べるはめになってしまった。罪悪感とやるせなさを、生臭さと一緒に噛みしめて食べたことを覚えている。

「嫌なら誰かに任せればいいのに」

 アシャが言った。

「肉屋にでも任しときゃ良いんですよ、そんなことで姐さんが嫌な思いしなくても」
「アタシがいつ嫌だって言ったのよ」
「だって今そんな顔してた」

 ベニアは前髪をかき上げてハァとため息をつく。

「目も当てらんないくらいヘタクソだった頃の話よ、今はそうじゃない」
「えっ! ヘタクソだったんですか?」
「狩りをやったこともないアンタに言われたくないわね」

 ベニアは口をへの字に曲げる。

「……その時に初めて会ったのよ、ヒトのかたちをした根々と」

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