僕が家に帰ると、既に風呂から上がってリビングに正座している守の姿があった。
風呂場でも2人に怒られたのだろう、守は小さくなっていた。
『外に出るなと言ったはずだ。』
『誘拐でもされたらどうするんだ』
風介は髪を乾かしながら、晴矢は正面に正座している。典型的な説教だ。
僕は少し溜め息をついて小さくなった守を抱き上げた。その瞳に溜まる涙はきっと勘違いしているから。
『僕たちは怒っているんじゃないよ、心配しているんだ』
『ごめ、なさ!』
ボロボロと零れる涙に動揺した2人も、たどたどしく守を笑わせようとする。
『もう泣かないで守、今度は3人で外に行こう』
『守、アイスを食べるかい?』
『飯は何がいい?カレーか?』
守は必死になる僕たちをみて涙を流しながら笑った。その笑みに安心した僕たちは少し胸が軽くなる。涙はみたくないのだ。
『傘は本当に助かったんだよ、風邪をひかずに済んだからね。』
『だが、変質者とか車とか子供が1人で出歩くのは危ない。きちんと学習してからだ』
守が素直に頷いたので僕たちは夕食の準備や風呂の支度に取り掛かった。
リビングに残されたのは僕と守だけになり、抱いたままの小さな身体に少しだけ力を込めた。可愛いこの子は閉じ込めておきたい、ずっとずっと。
『照美、外は楽しい?』
『…』
守の瞳にあの青色の髪がまだ記憶にあるのかと考えると腹が熱くなったが、それを冷ますように深く息を吐いた。
ラプンツェルみたいだ。檻の中から外をみる。王子は外の人間。魔女の僕にすれば邪魔者以外の何でもない
『そのうち、分かるよ』
閉じ込めておきたい幸せは僕だけのもの。守はきっと羽ばたいてしまうのだろう。
僕はその時、檻を開けてあげられるだろうか。幸せを、離してあげられるだろうか。
『守』
『?』
不意に漏れた言葉に守が顔を上げた。守は僕の顔をみると瞳を丸くして、小さな指で僕に触れた。
『照美…痛い?』
泣いている僕を心配するように戸惑う表情をしてから、守は僕みたいに泣きそうな顔になった。小さな指は僕の涙を拭いきれずに零れてしまった。
『大丈夫、大丈夫だよ守。』
高い高いであやしてからら守を抱き締めた。
『僕を忘れないでね』
霞んだ声に守も反応して僕に抱き付いた。肩の辺りが湿っていくのを感じて僕もさらに泣いてしまった。
これじゃ、どちらが依存しているのか分かったものじゃないね。
晴矢がやってくるまで僕たちは泣き続けた。