時刻は11時、窓の向こうは真っ暗だ
そろそろ本を閉じて寝ようかと考えていると、控えめに扉がノックされた
『おいで』
『…』
パタン、と本を閉じれば、扉の隙間からゆっくり入って来た守がこちらを窺う
『眠れない?』
小さく頷いてベッドに近付く守を優しく抱き上げ、隣に寝かせる。
小さな腕で僕に抱き付いた守は額を胸に押し当てる。僕はそんな守の頭を撫でる。
守はたまに夜を怖がる。そんな日は決まって僕の部屋にやって来る。南雲や涼野は眠ると起きないから、必然的にこんな美味しい役目は僕のものになる。
だから、僕の部屋にだけ枕が2つある。これは2人が知らないこと。僕と守の秘密。
『何か温かいものでも飲むかい?』
『ううん』
守にちゃんと布団が掛かるようにしながら髪を撫でれば、守は静かに首を振って力を込めて抱き付いた。
じんわりとお腹に体温を感じる
『安心して、怖いものはないよ』
髪を撫でれば守は小さく頷く
小動物に似ている、小さいからだろうが、愛護したくなるのだ。
『照美、優しい』
もそりと身動いだ守の顔がこちらを見当げた。大きな瞳が僕を写す。
『そうかい?』
『うん、だから照美、好き』
にこりと笑った守に涼野くん同様笑顔になってしまう。
『ありがとう、僕も守が好きだよ』
瞼に触れると、守は静かに瞼を閉じた。そしてそのまま、規則正しく寝息をたて始めた。
『…おやすみ、愛しい子』
額にキスをして、電気を消した。
部屋は真っ暗になったが今日は寝付けない、守の寝息を聞きながら、出会いを思い出すことにした
守は南雲くん達がそれぞれの高校に巣立った後におひさま園にやって来た子で、瞳子さんが言うには酷い雨の中を1人でおひさま園のドアを叩いたらしい。
そして、風介くんと晴矢くんとルームシェアをしようと思い、家電など借りようとおひさま園を訪れた時に守と出会った。
晴矢くんと風介くんは守の存在を知らなかったので、とても驚いていた。
『…お姉ちゃん、だれ?』
最初の一言はこれだ、今でも覚えている。いまより少し濁った瞳をした守に僕は心を惹かれた。
『僕は女の子じゃない、男だよ』
そして、この時の守の驚いた顔も、鮮明に覚えている。
うぅん、と守が唸ったので、また髪を撫でる。
家電を取りに来ただけだったのに守が頭から離れず、瞳子さんに必ず責任を持って育てる事を約束して4人で暮らす事にしたのだ。
きっと男3人ではやっていけなかったと思う。
守がいたから、家族のように生活が出来ている。
僕はこの生活がとても好きだ、だから
『守も同じだと嬉しいなあ』
こんな風に思えるのが家族なのかもしれない
うっすらと瞼が重くなって来た、最後にもう一度、頭を撫でて、僕も眠りについた。