ほかほかと湯気を出すオムライスを食卓に並べれば、守はスプーンを構えて待っている。足は床に付かないからジタバタと動かす。

『守、晴矢を起こしに行ってくれないかい?』

『うん!』

スプーンを持ったまま、守は2階へと掛け上がった。

『大丈夫なのか?晴矢の寝起きは悪いぞ』

『…晴矢も君の寝起きには負けるよ』

コトン、と最後のオムライスを食卓に載せる。

『まぁ、5分経ったら迎えに行くよ』

椅子に座り、静かに瞼を閉じた。




『晴矢!オムライス!』

寝起きの耳に舌っ足らずな言葉が入ってきた。この家で小さいやつは1人しかいない。

小さな腕は遠慮なく俺の頬をぺちぺちと叩く。歯に当たって少し痛い…

『ふーすけオムライス!』

耳元に高い声が響く、だんだんとはっきりしていく意識に身体が追い付いていく。

『晴矢起き『うーるせぇ』

ぐぃっ、と守の腕を引き、布団に引き摺り込む。小さい身体はいとも簡単に引き込める。

『!?』

守は何が起きたのか分からなかったのか、腕の中で呆然としている。

小さい守は体温が高いからか、布団の中がすぐに暖かくなった。

『…晴矢、晴矢』

『んー、』

『オムライス』

夕飯がオムライスなのだろう

『あー』

返事はするが、動かない俺に守が痺れを切らしてもぞもぞと動き始めた

『晴矢起きる!ふーすけオムライスだ!』

じたばたと暴れる守に、俺の意識もやっと戻った。

『…守、そんな暴れる悪いヤツには』

がばっと起き上がり、守の脇腹を掴んだ。薄暗い部屋の中で守の大きな瞳がキラリと光った。

『っ!』

何をされるのか分かった守が顔をひきつらせる。そんな守の顔をみて、俺も口角を上げた。

『こちょこちょだ!』

『っ、あはははははははは!』

バタンバタンと守の身体が跳ねる、酸素が足りなくなって声が出なくなった所で手を離した。

『っは、ふ…』

ゼェ、ゼェ、と息を整える守の瞳には涙が溜まっていて、少しやりすぎたかと反省し、頭を撫でてやる。

『…悪い悪い、苦しかったな』

『ん、平気だ』

平気と言うが力が入っていない小さな身体を抱き上げ、リビングに向かう。

(こいつ、スプーン持ったまま来てるし)

『お、シャンプー変えたのか?』

抱き上げてふわりと香った守の髪の匂いがいつものと違う事に気付いて守に尋ねれば、肩にしがみつく守は首を大きく縦に振った。

『うん、切れた』

うちのシャンプーやリンスはすぐにきれる。

大方、亜風炉照美のせいだと思う。

『あいつに髪切れって言ってくれよ』

『照美は綺麗』

ぶんぶんと首を振る守はへにゃりと笑う。そんな顔をされたら髪を切れなんて言えなくなったじゃねえか。

『そうかよ』

『ん!』

ガチャ、と扉を開けば、いい匂いがリビングに充満しているー。そういえばオムライスと言ってたな。

『遅いぞ単細胞』

『あ"?』

涼野の厭味を交わし、守を椅子に座らせれば、亜風炉が守の髪を撫でた。

『ご苦労様、さ、ケチャップで何を描こうか?』

『サッカーボールっ!』

その様子を横目で見ながら俺の椅子に腰を降ろせば、俺のオムライスにはチューリップが描かれていた。

『なっ、』

『フフン、上手く描けているだろう?私の自信作だ』

ドヤ顔の涼野が馬鹿にしたような顔でこちらをみる、殴り掛かろうとした所で守が両手を合わせた

『晴矢も!』

涼野は素早く手を合わせて素知らぬ顔をしている。

『チッ、ああ』

大人しく椅子に座り、両手を合わせる

『いただきます!』

『『『いただきます』』』

守の掛け声で、一斉に食べ始める。

チューリップの絵が描かれたオムライスに苛ついたが、守が美味そうに食ってたから今日は見逃してやる事にした。





 
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