雁字搦めに繋いでください







「…しようか、太一」
天井の電気が臣クンの体に隠れて、見えなくなる。覆いかぶさった臣クンが、俺の視界全部に陰を落とす。
臣クンのセリフと表情に心臓を丸ごと握られながら、俺は臣クンの顔をゆっくりと見上げた。
…いいよ。ねえ臣クン俺、ずっとずっとしたかったよ。
心の中で唱えた言葉は、臣クンに届いただろうか。キスをする寸前、お互いの息の温度が上がっている気がして興奮した。届いてたらいいのに。俺の気持ち、もう全部届いちゃえばいいのに。

数時間前まで、俺はこのソファの上で幸チャンと衣装のボタン付けをしていた。キッチンには臣クンが一人。今日の晩御飯の片付けと明日の朝ごはんの準備をしていた。
「二人とも、そろそろ寝とかなくていいのか?」
キッチンから臣クンの声が聞こえる。俺は体ごと振り返り、ソファから身を乗り出して臣クンの言葉に倍の声の大きさで答えた。
「もうすぐ終わるッス!」
「声でかいバカ犬」
幸チャンはそう言いながらただひたすらボタンを付けていく。当初よりはだいぶ裁縫の腕が上がったんじゃないかと自負していた俺だけど、やっぱり幸チャンの隣で同じ作業をしていると作業スピードの違いがはっきりと分かった。俺が一個ボタンをつける間に、幸チャンは4個、下手したら5個くらい付けてしまう。魔法みたいな速さで、機械みたいな正確さだった。
「そのペースでやってたら終わんないよ」
幸チャンが手元から目を離さないまま俺に言う。俺は崩していた姿勢を元に戻して「はいッス!」と返事をした。遅くても上手くなくてもいい。役に立てるのは嬉しい。いつか幸チャンにとって「いないよりはいる方がマシ」じゃなく「いてほしい」になれるよう、俺は自分に出せる最高速度で手を動かした。
「明日に響かないように、程々にな」
そう言いながらキッチンから朗らかに登場した臣クンは、俺たちの前に小ぶりなお皿を運んできてくれた。
「二人とも食べるか?枝豆」
「食べるッス〜!」
やったあ、ちょうどなんか食べたいなって思ってたところだったんだ。俺が両腕を上げてバンザイのポーズをすると、幸チャンが「バカ犬」と、俺をすかさずたしなめた。
「声でかい」
「はっ。ごめんね幸チャン」
慌てて両手で口をふさぐ。幸チャンは「別に謝んなくていいけど」と言って付け終わったボタンの糸を切る。糸を切る手もまた穴に糸を通す手も、綺麗で無駄のない動きだった。思わず見惚れちゃうくらい。
「あんまりこん詰め過ぎると、後で疲れちまうんじゃないか?」
臣クンは俺の横に腰をかけて優しく笑った。わ〜やった〜隣に臣クンがいると俄然心の元気度がアガルッス。実はさっきからずっと隣に来てほしいなと思っていた俺は、願っていた通りの展開に口元を緩めた。
「…オカンさあ」
幸チャンがはぁとため息をつきながら臣クンの方を見る。臣クンはキョトンという表現がピッタリな表情で「ん?」と返事をした。
「飴と鞭って言葉知ってる?飴だけじゃ躾になんないんだからね」
「あはは、そうかな。別に飴をあげてるつもりはないんだけどな」
「言っとくけど、甘っ々だから。見なよこのバカ犬の締まりのない顔。ヨダレ垂れてる」
幸チャンが俺の口元を指差してそんなことを言うものだから、俺はビックリして自分の口元をゴシゴシと拭いた。でも、ヨダレを拭いた筈の服の袖は一切濡れていない。
「幸チャンひどいッス!一瞬信じちゃったじゃないッスか!」
「は?信じたの?…え、引く…。なに、あんたホントにオカンが近くにいてヨダレ垂らしたことでもあんの…?」
「ないッス!なんて目をして俺っちを見てんスか!」
「…」
「黙んないでよ幸チャン!」
俺たちのやり取りを臣クンは横で黙って聞いていた。俺はその間ずっと幸チャンの方を見ていたから、その時臣クンがどんな顔をしていたのか知らない。…見ておけばよかったと、後から思った。そしたらちょっとくらい、心の準備ができたかもしれないのに。
「俺も良かったら手伝おうか?三人でやった方が早いだろ?」
臣クンの提案に幸チャンはすぐ頷いて「頼んでいい?助かる」と俺越しに言った。
「俺っちも頑張るッスよ幸チャン!」
「はいはい」
「ねえなんか臣クンと対応違くない!?」
「わかったわかった、太一のことも頼りにしてるってば」
「えへ〜」
大好きな二人に囲まれて、俺はすこぶる幸せな気持ちでボタン付けを再開した。

作業がひと段落したのは、それから1時間くらい後。三人で黙々と付けたボタンの量に俺は満足感を覚え、大きく息を吐いた。
「終わった〜!頑張った〜!」
二人の間で俺が思い切り伸びをすると、幸チャンが「おつかれ」と笑ってテーブルの上に置いてあった枝豆に手を伸ばした。
「ほら」
幸チャンが、俺の口元に皮を剥いた枝豆を一粒放り投げる。ごく稀にもらえる幸チャンからのご褒美に、それはそれはもう嬉しくなって俺は何のためらいもなくその一粒を口の中へ迎え入れた。
「美味しいッス!幸チャン!」
「ほんとだ。美味しい」
幸チャンも続けて臣クンお手製の枝豆を口に運ぶ。
「二人ともありがと。ちょっと進捗遅れてたんだけどこれで巻き返せそう」
幸チャンの笑顔に俺も笑い返した。
「ううん!力になれて良かった!」
「臣も忙しいのにありがとね。枝豆もご馳走さま」
幸チャンは言いながら十数枚のシャツを綺麗に畳んで重ねていく。
「臣クンも一緒に食べよ。メッチャ良い塩加減ッスよ、さすが臣クンの枝豆!」
臣クンの方を振り返り笑いながらそう言う。それで俺は、さっきからそういえば臣クンの方をあんまり見ていなかった事に気付いた。気付いて、それから一瞬全身が動かなくなった。俺を見つめていた臣クンの目が、だって、普段は見ないような色をしていたから。
「…うん、じゃあ俺もちょっと食べようかな」
臣クンの目は一瞬で元に戻ったけれど、俺は今の視線が忘れられずに息を飲む。臣クン、怒ってる。多分メチャクチャ怒ってる。俺は自分の言動を振り返りながら、どの瞬間が決定的だったのか考えた。
「後は部屋に持って帰って自分でやるから。ごめん、ミシン動かしたいんだ」
「ああ、分かった。幸もおつかれ」
「うん」
幸チャンはそれからシャツを全部持ってさっさと自室へ戻ってしまった。談話室に残ったのは臣クンと俺の二人だけ。幸チャンが扉を閉めた後しばらく沈黙が続いて、俺は瞬きもできないまま冷や汗をかいた。
「…」
「…」
さっきまで隣にいる臣クンに感じていた安心感が、今度は緊張に変わる。どうしよう、どうしよう。あ、謝んなきゃ。でもなんて謝ればいいんだろう。テーブルの上の枝豆を凝視しながら、俺は自分が次に言う一番正しい言葉を必死で探した。多分引き金になったのはついさっきの、俺が幸チャンから枝豆をアーンしてもらった瞬間だと思う。そのことについて改めて考えたら自分に幻滅して言葉を失った。
「…幸は、うまいな」
「…う、うん?」
おそるおそる臣クンの方を見る。臣クンはちょっと遠くを見ながら独り言みたいに呟いた。
「飴と鞭の使い方が。太一が幸のことを大好きな理由が良く分かるよ」
どこを見てるか分からなかった臣クンの目が、それから俺を捉える。寂しそうな、悲しそうな、まるで捨てられた子犬みたいな目をした臣クンの目に、俺はその瞬間捕まってしまった。
…ねえ俺、臣クンが俺の隣で他の誰かにそんなことしてたら、傷つかないでいられるの?平気な顔できる?できないだろ、できるわけないじゃんか。傷つくよ、絶対嫌な気持ちになるよ。何でそういうこと考えられないんだろう。何で自分のことしか考えられないんだろう。大好きで大切な人の気持ち、何でちゃんと分かってあげられないんだろう。バカだよ、自己中だよ、ホントにやな奴だ。
「…え、えと」
「……」
臣クンが俺をじっと見つめる。どうしよう、俺っちバカだ、臣クンをホントに嫌な気持ちにさせたんだ。口の中に残る枝豆の味が一気に苦くなった気がした。
「…お、臣クンごめんね」
「うん?」
「俺、あの…」
「うん」
「…えっと…」
続く言葉が思いつかない。なにを言ったって臣クンの気持ちが静まる訳ない。やっちゃった。ただひしひしと伝わってくるのは、臣クンの呆れと苛立ちだ。だけど「嫌な気持ちにさせてごめんね」なんて、俺本人にそれを言われるのもきっと腹が立つだろう。考えるほど言葉が出てこない。とにかく俺は自分の軽はずみな言動を呪うしかできない。
「…」
臣クンはそれからゆっくりため息を吐いて背中をソファに預けた。俺はそんな些細なことにも体がギクリと反応する。俺の緊張に臣クン自身も気付いてるんだろう、臣クンは顎あたりをぽりぽりとかいて「いいよ」とこぼした。
「別に、太一が謝らなくても」
「お、俺が悪いよ、今の」
「今のって?」
「え、えっと…」
「はは、分かんないのに謝ってるのか?」
臣クンの乾いた笑い声にまた冷や汗が流れた。心臓がバクバクし始める。どうしよう、どうしよう、もういくら謝っても許してくれないかもしれない。謝ったって太一はまた繰り返すだろって、笑いながら言われてしまうかもしれない。
「………」
情けなくて恥ずかしいけど、俺の目には涙が溜まってきてしまった。俯いて必死で唇を噛んで食い止めるのに、じわじわ漏れて蛇口はちゃんと閉まってくれない。やだよ、俺が悪いのに俺が泣くのは、やだよ。
「…太一?」
臣クンの声色が急に変わる。俺の背中に優しく手を置く。覗き込まれてるのが分かったから、顔を見られたくなくて俺はもっともっと俯いた。
「太一、ごめん。言い過ぎた」
言い過ぎてない、臣クンまだ何にも言ってないじゃんか。もっと責めていいんだ、こんな嫌な奴のことは、もっともっとボロボロに言っちゃえばいい。
優しい臣クンに嫌な思いをさせる自分が嫌でたまらない。ごめんね臣クン、ごめんなさい。
「太一ごめんな、感じ悪かった。こっち向いてくれ」
臣クンの殊更優しい声にまた自己嫌悪の波が押し寄せてくる。もうやだ。俺が悪いのに、謝らせてる自分が本当にもう嫌だ。
臣クンに背中を撫でられながらゆっくり顔を上げる。涙をすんでのところで食い止めて、俺は眉間にしわを寄せながら下唇を強く噛んだ。
「…ごめんなさい」
「…太一」
「やな奴で、ごめんなさい」
絶対泣くなと自分に言い聞かせながら声にするから、言葉はガタガタに震える。何でごめんなさいすら、ちゃんと言えないんだろう。
「……」
臣クンは困った顔をして、それから俺を目一杯強い力で抱きしめた。ソファーの真ん中に俺と臣クンの体重が集まって、スプリングが音を立てて沈んだ。
「ごめん、ごめんな。そんな顔しないでくれ」
臣クンの優しい声と体温が耳から脳へ、そして全身へ溶けていく。やめて、せっかく引っ込みそうだったのに。視界が揺れちゃうよ。
「はあ、俺は…心が狭いなぁ…」
俺は臣クンの胸の中でブンブンと首を横に振った。違う、違うよ、俺が悪いんだ臣クンじゃない。
「…俺が思ったこと正直に言うよ。あのな、俺が持ってきた枝豆なのにって、なんで幸が先にやるんだって…俺が太一にしたかったのにって、そんな馬鹿みたいなこと思って腹が立っちまったんだ。ごめんな、かっこ悪いな」
俺はまた首を横に振る。かっこ悪いのは俺だ。許してもらう役ばかり、いつもこうやって先にもらってしまう。
「ヤキモチ妬いた。嫌な気持ちにさせてごめんな」
さっきより強く首を振って、臣クンを見上げる。滲んだ視界の先にいる臣クンはやっぱり優しい顔をしていて、俺は、正しい言葉を選ぼうとして口を閉じた自分を心底恥ずかしく思った。
「…俺もあんなことされたら絶対やだ」
「うん?」
「臣クンが誰かに、自分の作ったやつアーンされるの、絶対やだよ」
「…うん」
「ご、ごめんなさい」
「いいよ」
「ごめんなさい」
「いいよ。…太一もやだって思ってくれるんだろ。嬉しいよ」
もう、耐えきれなくて、歪んだ口の端から情けない音が漏れてしまう。一度垂れた涙は止まらなくて、俺は壊れた蛇口を閉める方法を失ってしまった。
「ご、ごめんなさいぃ……」
臣クンはもう一度俺を抱きしめてそれから何度も「いいよ」と言った。何でって思う。何で何度も許してくれるのって。何でこんな俺のこと、何度も許して、抱きしめてくれるんだろう。
「…太一、ボタン付け上手かったな」
「お、臣クンの方がうまいぃ…」
「幸も言ってただろ。頼りにしてるって」
「お、臣クンのが頼りになるぅ…」
「あはは」
笑い声も優しくて、それだけでまた蛇口が壊れる。許してもらってもまだ、俺の心はごめんなさいをずっと繰り返し続けていた。
「…太一」
「う、うん」
「キスしよう」
臣クンが俺の鼻水を親指の腹で拭いて笑う。そんなの汚いから慌てて臣クンの親指を自分の服の袖で拭き直すけど、その瞬間に盗むようにしてキスをされてしまった。
「まっ、は、鼻かみたいから待っで…っ」
「いいよ、そのままで」
「や、やだ〜…」
「いいよ、かわいい」
もう、臣クンは俺の言うことなんて聞いてない。聞かないで、全部まるごと包み込んでしまうのだ。やだよ、ちゃんと聞いてよ、それでちゃんと俺を責めて、叱って、怒ってよ。帳尻が合うまで許さないでいてよ。
だけど俺の口から溢れるのは「臣クン大好き」という言葉だった。ごめんなさいを押しのけるほど大きな気持ちが、自分の意思を無視して声になる。
「お、臣クン好き」
「うん」
「だ、大好き…」
「うん」
涙でびしょびしょの頬に唇を寄せて、臣クンが舌先で涙をちょっとだけ舐める。簡単に「あ」と声が出て、自分はホントにはしたないなと思った。
「あ、臣クン」
「うん」
「くすぐったいよ」
「うん」
たくさん泣いてボンヤリする脳に、気持ち良いという感覚だけがダイレクトに流れ込んでくる。くすぐったい。あったかい。臣クンに舐められるの大好き。もっとして欲しくなって、俺はゆっくり瞼を閉じた。
上半身を押し倒され、臣クンが俺の上に覆いかぶさる。お互いに小さな声を漏らしながら深く舌を繋げてキスをした。俺の涙を纏っているからか、臣クンの舌は少ししょっぱかった。
「…こっちも良い塩加減だな」
唾液の細い糸をぶら下げながら臣クンが意地悪に笑う。俺がさっき言った言葉をわざと蒸し返そうとする臣クンに、俺は意地悪だと心の中で悪態をつきながら、でも、興奮してしまった。
「…嫌だったよ、さっき」
「ご、ごめんなさい…」
「…もう、誰にもあんなことされないでくれ」
臣クンが俺の耳元で囁く。その息の熱さに耳の奥まで焼かれそうになった。
「俺だけの太一でいて」
「…あ、ぁ」
「俺のこと以外見ないでくれ」
「あ…ぁ、うん」
臣クンの感情が、湿度を持って俺の中に雪崩れ込んでくる。ゾクゾクする。気持ち良さに体が微かに震える。どうしよう、好き、大好き。臣クン大好き。
「約束してくれ、太一」
鼻先がくっつく距離で、臣クンが俺の目をじっと見つめる。瞳に、腕に、想いに縛られてる。縛り付けられて、その息苦しさに興奮してしまう俺を、どうか臣クン、気づかないでいて。
「…好き、臣クン」
「…うん」
「あ、や、約束する…臣クンしか見ない」
「うん」
「お、俺のこと全部、臣クンだけのにして」
自分の吐くセリフにさえ背筋をゾクゾクさせて、俺は臣クンにそう訴えた。臣クン好きだよ、大好き。臣クンにこうやって心を縛られると俺、すぐ変になるんだ。
「…しようか、太一」
臣クンが呟いて、俺の首にキスをした。電気のようにそこから刺激が流れて、俺の体は嘘みたいに震えた。
言葉にならないまま、俺はゆっくり頷く。…いいよ。ねえ臣クン俺、ずっとずっとしたかったよ。…もし、俺だけの太一でいてって囁かれながら体を揺さぶられたら。一体どれだけ、気持ち良いんだろう。
舌が絡まる。唾液がグチャグチャに合わさる音がする。息が苦しくて引っ切り無しに声が溢れる。たまに臣クンからもくぐもった声が聞こえて、それだけで俺の性器はもっとガチガチに硬くなった。
リビングのソファーの上で俺たちはお互いの体をまさぐりあった。気持ちいい。どうしよう、もっともっと気持ちいいことがしたい。縋るように臣クンのうなじに腕を回したら、それを合図にして臣クンが俺の服の中に手を入れてきた。
「あ…ぁ」
「…好きだよ太一」
「ぁ、ぁ…」
「太一といると、頭がメチャクチャになる」
「あ、あっ…お、俺も、ぁ、俺も」
「好きだよ」
親指で乳首を優しくいじめられながら、口の中を目一杯責められる。気持ち良さでクラクラした。自分の体は勝手にビクビク跳ねて、臣クンに触れられるのをもっとねだった。
臣クンの左手がそっと俺の下半身に伸びる。股間を撫でられ、それからゆっくり後ろまで、くすぐるようにして服の上から触られた。
「…指、入れてみていいか?」
おでこをくっつけて臣クンがそう尋ねる。元からそんなこと、良いに決まってる。俺は焦れったくて、急かすようにこくこくと何度も頷いた。
臣クンが俺のズボンのホックとファスナーに手をかける。息を荒くしながらその手元をじっと見つめていた、その時だった。
「誰だいつまで電気点けてる奴は!!」
談話室の扉が勢いよく開いて、豪快な怒鳴り声が部屋中に響いた。声の主は質素倹約節制でお馴染み、左京にぃだった。
「太一、寝たフリだ」
臣クンがすかさず俺に耳打ちをして、覆いかぶさったその体制のまま寝たふりをした。俺も臣クンを真似て、目を閉じて寝息を立てる。左京にぃは談話室をザッと見渡してから、ソファーに寝転ぶ俺たち二人の元へやって来て「おいお前ら」と言った。
「ったく、何してたらそんな体制になるんだ。寝るんだったら自室で寝ろ」
俺の上で寝たふりをしてる臣クンの頭を、左京にぃが軽くはたく。臣クンは「…う」と小さく呻き、起こされて不機嫌という表情を作ってから左京にぃを見上げた。
「電気消すぞ。おら、七尾のことも起こせ」
「…はあ。…あー、水飲んでから行きます」
「ふん。まあ構わねえが。…その枝豆はどうした」
「あー…太一と一緒にテレビ観ながらつまもうと思ってたんですけど、そのまま俺たち寝ちまったみたいで。食べます?」
「いいや、いい。食わねえなら冷蔵庫ん中しまっとけ。ったく…こんなとこで寝て体痛めたりでもしたらどうすんだ」
「はは、そうっすね」
「七尾にも、起こしたらちゃんと言っとけ。そのままそこで二度寝すんじゃねえぞ」
「はい」
「いいか、電気は消せよ」
「分かりましたってば」
左京にぃはそう念押しをして、ため息をつきながら談話室を出て行った。
「……」
「行ったよ」
臣クンの言葉で、俺は恐る恐る目を開ける。止まったかと思った心臓は、さっきまでとは違う意味合いでバクバクと音を立てていた。良かった、間一髪だった。あ、危なかったぁ…。
「………ふ」
臣クンが顔を手で覆って、我慢しきれずに吹き出す。俺はちょっと驚きながら「臣クン?」と首を傾げて尋ねた。
「邪魔されるの何回目かなと思って。監視カメラでも仕込んであるんじゃないか、この寮」
臣クンがまるで緊張の糸が切れてしまったみたいに笑うから、俺もつられて「ふふ」と笑い声が溢れてしまった。
「ホントだよ。もう、なんなんスか!」
「俺が聞きたいよ。なんなんだ本当に」
「やってらんないッスよ!」
「あはは」
おかしくなって、笑い合って、それからどちらからともなくキスをする。すっかりオフになってしまったスイッチは、もうただただ体を脱力させるだけだ。よく分からない笑いが次から次へと込み上げてきて、なんだか余計におかしい。
「だめだな、もう。ちゃんと予定立てないと」
「あはは、は〜おかしい…うん」
「寮の中はもうやめよう。さすがに懲りた」
「あはは、うん」
「よし、部屋に戻って作戦会議だ」
臣クンが、小皿に乗った枝豆を持って立ち上がりそんなことを言うものだから、俺はおかしくて、なんだか楽しくなって、大きく頷いて笑った。
「ひひ。うん!」
そして俺たちは誰もいないことを確認してから、手を繋いで廊下を進む。
絡まり合った指先に、俺は内緒で小さく祈った。
一緒にいると、頭がメチャクチャになるのは俺の方だよ。ずっと臣クンの俺でいるから、ずっとこの手を離さないでね。
大好きだよ臣クン。やな奴でごめんね、ずっと好きでいて、いつでも縛って、雁字搦めにしてほしい。

俺たちの体、早く一つにならないかなぁ。







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大好きなまきちゃんのお誕生日に贈らせていただきました!^^*
リクエストは「いちゃいちゃをかましてるかわいい臣太」だったのに、書いていたらどんどん沿わない内容になってしまって…なんでだ…。
まきちゃんのお誕生日をお祝いするのはこれで二度目なんだなぁと思うと感慨深いな…もうそんなに時が経ったのか…。まきちゃんがいなかったら、今も臣太を書き続けてるってことはなかったかもしれない。私生活のふとした場面の中でも、まきちゃんの言葉は私をハッとさせたり、支えてくれたりしています。
いつもありがとう、大好き!お誕生日おめでとう!!*






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