赤面犬と独占犬






「この前さ、公演後のアンケートに「ストリートアクトでやってほしいものリクエスト」っていう項目があったじゃないッスか」
就寝前、ふと思い出したように太一がベッドに寝そべりながらそう言った。
「ああ」
枕の上、仰向けの姿勢で頭の後ろに手を重ねながら太一の言葉に俺は相槌を打つ。
「そんでね「さじチャン」ってお客サンがね、匂いに関する内容で…って書いてくれてたんスよ」
「へえ、匂いかあ。面白いお題だな」
「ね!なんかちょっと印象に残ってさ。どんな内容でできるかな〜って、俺っちちょっと考えてたんだけど」
「うんうん」
「俺っちがね、臣クンの犬なんスよ!」
「…うん?」
太一の突拍子もない言葉に驚いて聞き返すのが少し遅れる。太一はそんな俺に気付いたのか、自分の考えた案を丁寧に説明してくれた。
「飼い主の臣クンが、新しく香水を買って付け始めるんだけど、犬の俺っちはその匂いが嗅ぎ慣れなくてメッチャ威嚇するのね。ウウ〜とか唸って」
「はは、うんうん」
「で「この匂いはなんだ!いつものご主人様じゃない!臭い!いやだ!」って騒ぐんだけど、俺っちは犬だから臣クンは俺っちの言ってることが分かんないのね」
「うんうん」
「で、臣クンは俺っちが怒ってる理由を「もっと構え!」って理由だって勘違いして、メッチャ抱き締めたりお顔スリスリとかしてくるの。で俺っちはますます怒る!っていうコメディー的ショートストーリー。どうかな!?」
暗闇の中、見えなくても太一の楽しそうな表情が簡単に想像できるほど弾んだ声が聞こえてくる。俺は笑いながら「いいな」と言葉を返した。
「あー…。でも、そんな内容にして大丈夫かな俺」
「ん?なんで?」
「お客さんの前で太一を抱き締めたり頬ずりしたりするんだろ?演技じゃなくて素が出ちまうかも」
軽く笑い返してほしくてそう言ったが、太一は「あ」と言った後「たしかに…」と小声で零してから黙ってしまった。いけない、もしかしたら太一の案を否定したように聞こえてしまったか。
「…俺っちも…臣クンに人前で抱き締められたら多分ダメだ…」
呟くような声は、恐らく太一が顔を布団の中に隠してしまったからだろう、随分くぐもって聞こえた。きっと今彼は少し顔を赤くさせている。その可愛さが愛しくて、俺は太一を今すぐ抱きしめて撫で回したい気持ちに駆られた。
「…じゃあ、もういっそ恋人って設定でストリートアクトしてみるのは?恋人の太一がさ、デートの日に新しい香水を付けてきて俺がドギマギするっていう」
「へっ」
「太一、今日いつもと違う匂いがするな…。ちょっとドキドキするよ」
「え、なに、なにこれ、始まってる?」
「新しい香水?そうか…うん、いい匂いだ」
「待って待って、待って臣クン、声が甘いよ、甘すぎるッスよ」
「もっと嗅がせてくれるか?うなじ、こっちに向けて」
「ひょぇぇ」
「…ああ、いいな。ずっと嗅いでたいよ」
「ふぁー!」
まぶたの裏に思い描きながらセリフをなぞると、頭のすぐ近くから太一の素っ頓狂な声が響いた。太一も頭の中で今、同じようなイメージを描いてくれているのだろうか。なんだか嬉しくて、それから少し加虐心が湧いてきてしまった。
太一はかわいい。ああ、本当にかわいい。
「…もっと嗅がしてくれないか?太一のいろんなところ…」
「ストップ!ストーップ!!」
気分がノッてきて更に続けると、いよいよ太一がカチンコを鳴らして強制終了してしまった。俺は苦笑しながら「ここからがいいところなのに」と訴える。
「これはストリートアクトでやっていい内容じゃない!R指定ッス!ダメダメ!NG!却下!」
「そうか?残念だな…」
「なにが「残念だな…」ッスか!笑ってんじゃん臣クン!」
「あはは」
「あははじゃない!」
「あはは」
ベッドの柵の向こうから彼の手が伸びてきて、頭を軽くチョップされる。少しいたずらが過ぎてしまったみたいだ。俺は数回続く彼のか弱いチョップを受け入れながらもう一度笑った。

後日、俺と太一の二人で実際にやった芝居は「空腹の兄弟が美味い匂いにつられて街を右往左往する」という色気のない内容に変更されてしまったが、お客さんからの笑いと拍手は大きく、その日のストリートアクトは無事成功に終わった。アンケートに書いてくれたさじさんも、観てくれていたら嬉しい。
…人前でかわいい太一を晒すのは、やっぱりやめておくことにしよう。だって全ては、俺だけが見ることのできる、俺だけの特権だもんな。








臣太で知り合えた大好きなフォロワーさんがお誕生日だったので、短いけれど書かせていただきました!「匂いに関する臣太」という素敵なリクエストをくれました。ありがとう^^*
私の誕生日の時さじちゃんが太一くんの絵を贈ってくれて、すごくすごく嬉しかったのを今も鮮明に覚えてます。さじちゃんの、目を細めて笑ってる太一くんの笑顔が大好きです!
あとモブのお話も待ってます…待ってます…さじちゃんの御本欲しいです…。(お祝いする筈が欲望を吐き出しているのは何故)
さじちゃんお誕生日おめでとう!臣太の溢れる素敵な一年となりますように^^*




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