丸井+仁王(+幸村)
どんっ
「あ、すまんの」
「うぎゃあああああ折れたぁああああああ!」
「…………」
「何さらすんじゃて、め……」
「何やっとるんじゃお前…」
タイミングはばっちし、倒れる位置も完璧。台詞も声量も文句なし。ただ相手を間違えた。廊下で無様に肩をおさえる俺を仁王は見下した目で見る。やめて、俺をそんな目で見ないで。
「かわいそう…」
「やめてやめて。ちょっと待って、これには理由があるんだ。仁王ううううう」
「ちょ、マジで近付かないで」
足にすがれば残酷にも仁王は俺の顔を足の裏でおもっきり蹴ってくる。痛い痛い痛いって!
「お金がなくて仕方なかったんだよ!」
「お金がないのがなんであんな事に繋がるんじゃ」
「いや、あぁやって慰謝料貰おうかと」
「どこのヤクザ」
仁王がやっと足をどけてくれたので体を起こして廊下の端で三角座りをする。そうしていれば仁王が珍しく、珍しく優しさを見せた。頭を、俺の頭を撫でた。
「ちょ、キモい。なに?」
「かわいそうじゃから、やる」
お母さんが子供にお使いを頼むかのように手のひらに何かを握らせる。まさか、まさかこの形、感触は。
「……5円かよ」
「あげる」
「いやいやいや少ねぇよ!なんで5円!?」
「ご縁があるように」
「しかもダジャレかよ!しかもベタだな!」
じゃあ返して、と言われたからちゃんとポケットに入れる。そうだよな、5円を馬鹿にするやつは5円で泣くらしいしな。
「よっしゃ!やる気出てきた」
「なんの」
「慰謝料」
「懲りんやつぜよ」
うるせー。財布ピンチなんだよ。とりあえずこちらに曲がってくるあいつを狙おう。いきおいよくスライディングして肩をおさえる。よし、またも完璧な演技。
「いったぁあああ!なにさら…」
「何してるの?」
「ゆゆゆ、幸村くん」
「痛い?どっか打った?」
「や、なにもない。気にしないで」
「幸村先生ー、丸井君が幸村君に脅迫して金を巻き上げようとしてましたー」
「仁王てめぇえええええ」
ど阿呆!もういい!お前なんて後ろ髪引っこ抜かれたらいいんだ!そう罵倒すれば後頭部がミシミシと嫌な音をならす。痛い怖い。
「丸井?そうなんだー」
「ぎゃああああ」
「情けをかけてあげたのに金を請求するつもりだったんだー。寧ろこっちが慰謝料ほしいよね。心配してあげたんだし」
「え、」
「出せよ、金」
「いや、ちょっと待っ。すいません今5円しかありません」
「かわいそう。だけどありがたく貰うね」
一瞬の出来事で俺は全財産なくなった。なるほど、あぁやって金をとればいいんだ。そっか、うん。
「どんまいじゃのう」
「お前が言うな、お前が」
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