幸村+仁王


「あーやっちゃった」

ただいまの時間、8時40分。
完全に遅刻だ。

自分でも珍しいと思った。まさか寝坊だなんて。もしや初めてなんじゃないかって思ったけど嘘ついたごめん。小学校の時以来だ。いつもと違う時間帯の電車に乗るのは新鮮な気分になった。時計を再度確認すればもう9時を過ぎている。なんか行く気なくしてきた。

「幸村?」

席に座らずドアに凭れながら外の景色を見ていれば誰かが俺の名前を呼ぶ。

「なんだ仁王か」
「なんだってなんじゃ」
「お前も遅刻?」
「まぁ」
「いつもの事か」
「まぁ」

あーだるい。これ以上仁王と喋る気にもならなかったので仁王から視線を外してまた外を見る。あ、今気付いたけど今日すごいいい天気。

「なー今日の体育ってサッカー?」

話しかけるなオーラを放っているはずなのに仁王は俺に構ってくる。

「うん」
「あっそ」

それだけかよ。聞いたくせにそれだけかよ。うっぜー。なんなのお前。寂しいの。構ってほしいの。残念、生憎俺はお前に構ってやれるほど優しくない。

「のぅ幸村、今日数学ある?」
「うん」
「あっそ」

だからなんなの。本当にお前は何がしたいの。早く駅に着いてくれと腕組みをし、人差し指がイライラを象徴させるようにリズムよく動く。

「幸村」
「なに」
「なんもない」

あ、今完全にイラッてした。外の景色から仁王に視線を向ければきょとんとした顔。

「さっきから仁王なんなの。うざい。構ってほしいわけ?寂しいわけ?」

あ、言い過ぎた。とか自覚してる。自分でもなんでこんなにイライラしているのかは分かっている。なんだって朝の占いで俺の星座は最下位だったのだ。挙げ句の果てに今日1日ラッキーに過ごすためには早起きが必要だとあのアナウンサーは言った。寝坊したっつーの。何も返さない仁王の気まずさに俺は車両を変えようとした時

「うん」
「は?」
「一人は寂しいから構ってほしかった。なんかすまんのう」

え、なにこのデレ。驚きで仁王を見ていればシュルシュルと小さくなる俺のイライラ。そこでタイミングよく電車は駅に到着した。

「仁王…」
「なん?」
「一緒に学校行こうか」

そう言えば予測を反し、仁王は首を横に振った。

「ズボンのチャック全開のお前さんとは歩きたくないからのう」

お前それを先に言えよ馬鹿が。



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