「はい点呼とるよ。赤也」
「はい!」
「ブン太」
「うぃー」
「仁王…ってあれ?」
仁王がいない。
あーやべ、仁王に今日の集合時間言ってない。それを幸村くんに言えばニッコリと「早く電話しなよ」と言う。ていうかこんな日差しなのになんで幸村くん長袖なんだ。なんで汗かいてないんだ。俺なんてポケットのチョコレートどろっどろなのに。
『……うるさいぜよ』
「やばい仁王、今からバス停きて」
『は?』
「いいから来て」
『やだ。暑い』
「いいから来いって」
『……幸村』
駄々をこねる仁王に困っていれば隣から幸村くんが携帯を奪って圧力がある声で電話越しの仁王に言う。それからいくつか返事をした後、通話は終了。どうだった?と聞けば来るよ と笑みを漏らす。それから数十分後に仁王は来たけど。
「あれお前荷物は?」
「え?」
なんで手ぶらなんだ馬鹿野郎。
結局仁王も、仁王の荷物も集まって宿泊先に着いたのは予定よりもだいぶ時間が過ぎてからだった。和式の部屋で、窓からは海が見える。各自適当に荷物を置いて意味なく中身を漁りながら部屋内の自分の領域を増やしていく。
「しっかし暑いっすね」
「何これクーラー?幸村くん、つけていいかな」
「つけちゃえ」
「ひゃっほぉおおい」
やばい高いテンションに少し自分を見失いそうだ。クーラーのリモコンを手にとって温度と風の強さを操作しながら風向きを自分の領域に直撃させる。完璧だ、俺の領域はもはやオアシスと化した。
「あーっ先輩ずるいっすよ!自分だけクーラー直撃だなんて」
「先輩だから当たり前だろぃ。って仁王!なに横取りしてんだ!」
「俺も先輩じゃき、当たり前ぜよ」
どや顔で風向きを変えた仁王のせいで俺の領域は一気に暑くなる。
「仁王返せ。これあげる、これあげるから」
「そんなドロドロのチョコレート、逆に悪意を感じる」
「というか」
最後の手段と差し出したチョコレートをあっさり投げられ、仁王に掴みかかろうとした時、今まで黙っていた幸村くんが口を開く。
「普通長袖着てる俺にあてろよ」
あ、やっぱ暑いんだ。
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