押し倒される夏






*大学生設定



「よし、次このゲームしよっと」



ソフトをゲーム機にセットしたときだった



ピンポーン



誰かと思ったけれど、2回目からは連打されてすぐに隣に住む彼だとわかった


あぁもう、やめてよ、うるさいなー


ガバッと玄関の扉を開けた



「松岡、なにっ」



思いっきりしかめっ面を作る



「苗字、ゲームやらせろ」





それは夏休み直前のある休日


私はコントローラーを握り、以前にクリアした格ゲーやカートゲームのソフトを片っ端からプレイする、というゲーム三昧のはずだった


しかし、このアパートの隣に住む凛が訪ねてきてしまった


これは絶対に凛にコントローラーを取られてはいけない



「無理」



そのまま扉を閉めようとしたけれど、すかさず凛が足を入れてきた



「なんでだよ、やらせろ」


「無理、帰れ」



でもやっぱり凛は男で私は女


力じゃ勝てない


凛の侵入を許した上に、あろうことか玄関で押し倒されてしまった


両手首を掴まれて動けない



「ちょっと…っ」



これは地味にやばい


心臓が早鐘を打ちまくっている


凛が私の首元に頭をうずめる



「……っ」



髪の毛がくすぐったい



「も……いい加減に、やめ…ひゃあっ」



いきなり耳に息を吹きかけられれば驚くに決まってる


すっかり身体の力が抜けてしまった



「そそるな」



整った顔で私を見下ろして口角を上げる凛


なんだか悔しい


こんなに恥ずかしいの私だけ?



「変態」


「上等」



今度は耳を舐められた



「…やぁっ」



あわてて口を噤み、目も瞑った



「お前、感じすぎ」



体温が急上昇している気がする





熱い





舐めたり食んだり少しだけ鮫歯を突き立てられたりして耳を責められる


やば…声出そう



「ゲーム、やらせてくんねぇなら最後までヤーーー」


「ゎ、わかった!好きなだけやっていいから!だから離してっ」



やっと凛は解放してくれた


はぁ、ほんとに襲われるかと思った


目を開けるとすぐ近くに凛の顔


一瞬、頬に柔らかい感触


ちゅっというリップ音


………え?なに、今の


凛はもう奥の部屋でコントローラーを握っている


とりあえず落ち着こう


私はコップ一杯の麦茶で喉を潤した



「苗字、それ俺にもくれ」


「あのさ、松岡はなんでいつもうちにゲームしにくるの」



思えば休日の度に凛はうちに上がり込んでいる気がする


かっこよくてスポーツもできて頭もいい凛ならすっごくかわいい彼女がいたって不思議じゃない



「彼女とかいないの?」



それは聞きたいけど聞きたくなかったこと


チクッと細い針で心臓を刺されるような感覚



「お前ってさ…」



はぁーっと盛大に長いため息を吐かれる



「もう1回押し倒せば理解すんのか」


「なっ…」



そんなセリフとは裏腹に、コントローラーを置いて立ち上がった彼に優しく抱きしめられた



「彼女はいねーけど、好きなやつはいる」



さっきの熱い体温が蘇る



「…名前」



初めて名前を呼ばれた


あぁ、やっぱり私はこいつが好き



「凛、」


「名前が欲しい」



唇を奪われるまであと3cm




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