バレンタインなchocolate






うわー結構いっぱいもらってるじゃん…



相も変わらず遙のひとことで私たちは帰路に着く



「名前 、帰るぞ」



雪が降りそうなくらい寒い冬のある日


私はかわいい後輩である江ちゃんから手作りチョコをもらって嬉しい反面、予想以上に遙が女の子からバレンタインのチョコをもらっていて心中穏やかではなかった


そのほとんどが義理であることを願うが、中には本命もあるかもしれない


ちなみに真琴は放課後になってもたくさんのチョコをもらい、優しく応えて話し込んでいたので遙は帰りに誘わず置いてきた


さて、どうしよう…


結局まだ遙にチョコを渡せていない


あんなにもらってるの見たら渡すに渡せないし

ひとりで家でこっそり食べよう、うん



「遙ってさ、好きな人いないの?」



つい、ふと思ったことを聞いてしまっていた


右手に見える海から潮の香りが届いた気がした


あ、いやだ、聞きたくない



「……………いない」



え、なにその間


絶対いるじゃん


遙と真琴とは幼なじみのおかげで互いになんとなくわかってしまうことがある



「いるでしょ」



私の右を歩く遙は海の方へ顔を向けた


これ以上は答えてくれないな


遙の好きな人ってだれだろう


今日チョコくれた人の中にいるのかな


うーん


とりあえずクラスの女の子を思い浮かべてみる


遙が好きそうな子ってだれ



「名前」


「んー?」


「名前が作ったチョコってまだあるか?」



心臓がドキッと跳ねた


まさか遙にあげるつもりだったなんて言えない



「……………ないよ」


「あるだろ」



ばれたか



「これは自分用」


「それ、俺がもらう」


「なんで、今日いっぱいもらったんでしょ」


「名前のチョコは別腹」



そんなに顔覗きこみながら言わないでよ


もう石階段の手前のいつも別れる場所まで来ていた


歩みを止めて遙に向かい合った…







「鯖の上にのせて食べたりしないでよね!」



渡して恥ずかしくなったから、そんな捨てセリフを吐いて走って帰った


あーあ、私ってかわいくないな




その名前の後ろ姿を見て



「なんだあれ」



遙は小さく笑っていた



「……… 名前かわいい」




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