「名前、今日は俺と買い物に行こう」

は?
あの甘い…いや、妙な雰囲気の後の唐突な提案だった

「あの、お仕事は…」
「まずはいろいろと必要なものを買い揃えないとねぇ」



そこは見慣れた街並み
折原さんに連れられて私はまた池袋へ来ていた
本当に自由な人だなぁ

「俺は先にちょっと仕事を済ませてくるから名前はこの公園でジュースでも飲みながら待ってて」

と、小銭を手渡された

「すぐに戻ってくるよ」

折原さんはひらひらと手を振り、街の中へ溶け込んでいった
もしかすると、彼の本当の目的は買い物ではなく池袋での仕事とやらなのかもしれない
なぜわざわざ私を連れてきたのかは謎だけれど



近くの自動販売機で缶コーヒーを買い、公園の階段に腰掛けた
ひとりになると、やはりふと思ってしまう
自分は一体なにをやっているのだろうと
面倒だったから情報屋を辞めたのに折原さんの元で働くことになって…
それはあのときよく考えもせずに流されて決めてしまったからだけど、私はもう折原さんから離れることはできないような気がして
人間を愛する折原さんに興味を持たれたからというわけではなくて、たぶんこれは私の問題
私の気持ちの問題…

「お前っ、」

とんっ、といきなり肩に手を置かれた
驚いて振り返ると平和島静雄がいた
私はさらに驚いて固まって動けないのだが向こうもかなり驚いているようで目を丸くしている
なんで平和島静雄が私に接触を?

「お前、この前あのノミ虫に引っ張られて走ってた女じゃねーか?」

ああ、そのことか

「え、えーと、まあそうですけど」
「あれ以来、ノミ虫野郎と関わってねぇだろうな?」

ここはどう答えるべきなんだろう
少し迷って私は正直に告げた

「今は彼に雇われています」

平和島静雄が顔を歪ませたとき通りの向こうから人が歩いてきた
軽く会釈する

「静雄、次行くぞー」
「あ、トムさん」

確かこの人は平和島静雄の上司だ

「お前、あの野郎になんかされたらすぐ俺に言え
いつでもぶっ殺しに行くから」

それは心強いような?
でも本当に折原さんのこと大嫌いなんだ
その言葉を残して平和島静雄は立ち去った
期せずしての逢瀬
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