「それで、名前ちゃんは亮さんか弟くんのどっちが好きなの?」
「だからー、どっちも大事な幼なじみだって言ってるじゃん」

もう何度目かもわからない
ニヤニヤ笑う御幸にあきれたように返す
彼はまたすぐにスコアブックに視線を落とした
私は御幸の前のもっちの席に陣取ってわざとらしくため息を吐いた
ちなみにもっちはジュースを買いに行っているから今は不在だ

「名前、ちょっときいていいか?」

御幸が私を呼び捨てにするのは真剣な話をするとき
少しだけ構えて心の準備をする

「なに?」


「お前って好きな人いる?」


は?いきなり、なにそれ…別にそんな人、

「…いない、かな?」

あれ、でもこのなんかざわつく感じ…なんだろう

「いや、やっぱりわかんない…かも」
「そっか」

優しいけれど切なそうな微笑みで私の頭をポンと撫でると御幸は教室を出て行ってしまった
その背中はやはり野球少年の背中だったと思う

私は好きな人がいる、のかな


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