苗字さんはあんまり笑わないし、ぼーっとしてるし、ときどきサボるし…

不思議な子だな

最初はそんな印象だった気がする

でも教科書忘れたり、口下手だったり、照れたり、野球部の練習見に来てくれたり…

かわいい女の子だった


「小湊くん!」


呼ばれてそこで階段を降りる足を止めた

けれどまだ苗字さんの手は離さない

さっきのセリフを思い出す


「好きな人ができました」


御幸先輩にああ言ったってことは、やっぱり苗字さんは御幸先輩のこと…

思わず屋上に飛び出していた


「あの、話って…」

「名前」


優しく抱きしめて壁と自分との間に彼女を閉じ込める

苗字さんのにおいがした

両手首を壁に縫いつける

驚いたような照れたような目が一瞬俺を捉え、すぐに逸らされた

もう自分の心臓の音が相手に聞こえてしまいそうだった


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