除夜の鐘。



ゴーン…ゴーン…。

除夜の鐘が遠くから聞こえる。あと少しで年が開けるだろう。
去年とは違い、今年はゆっくり迎えられそうだと俺は一人笑顔を浮かべた。
屯所の大宴会は昼間から飲んだくれたせいでほぼ収束している。もちろん、俺は酔ってない。断じて。まあ、確かに何杯かは飲んだが。
はだけた着物で縁側に座れば涼しい風が吹き抜けた。宴会が行われてた大広間は暑い。少し涼もうと外に出たのは正解だったらしい。

ゴーン…ゴーン…。

鐘がどこか遠くで聞こえる。その音に心地よさを感じつつゆっくり目を閉じた。
色んなことがあった一年だった。毎年のことだと言えばそれまでだが。
それでも一人も欠けずに一年を乗り切れたのは褒められることだろう。反乱が起きたせいで随分と淋しい年越しもあった。

冷たい柱が気持ちいい。火照った体を程良く冷ましてくれる。鐘の音が子守歌のように聞こえてきた。
このまま意識を手放せる、と思った矢先。


「オイコラこんなとこで寝てんじゃねえぞ酔っぱらい」


不意にそんな声と共に足で体を蹴られた。とは言え、つつかれたような感じだからあまり痛みはない。ユルユルと目を開ければコップを二つと酒瓶を抱えた鬼が立っていた。


「煩悩は消えるんじゃなかったっけ…」

「は?」

「あ、鬼は欲望じゃねーか。ハハッ」

「…何が言いてえかはサッパリだが、お前が酔っ払ってることだけは分かった」

「酔ってないれす〜」

「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ」


言いながらドカッと俺の横にあぐらをかいた鬼―――もとい、土方さんはコップにお酒を注ぐと俺に差し出した。
それを受け取ってジッと見つめる。すれば、月がお酒に映ってた。


「月見酒だ〜」

「本当だな」

「ふふっ、粋ですね〜」


言いながらもまだ其れに口を付けない。
鐘の音を聞いて、あと10回と土方さんが呟いた。

ゴーン…ゴーン…ゴーン…。

お酒から顔を上げて彼を見つめる。
来年もきっとまたずっと一緒にいるのだと思う。なんの根拠もないけど。

ゴーン…ゴーン…ゴーン…。

見つめていると土方さんが顔を上げて視線が交わった。そのまま二人で見つめ合う。

ゴーン…ゴーン…ゴーン…。

鐘がなる度に二人の距離は縮まって、9回目の鐘が鳴ると俺と土方さんの唇がくっついていた。
アルコールのせいで苦い、大人のキス。

ゴーン…。

最後の鐘が鳴ってもずっと口づけていた。
暫くしてから満足したらしい土方さんが俺から離れる。俺はまだ足らなかったけどからかわれるのが目に見えてたから大人しく離れた。


「せっかく煩悩を消してもらったのにな」


今更すぎる発言をして土方さんは苦笑する。俺もつられるように笑った。
ただし、苦笑じゃない。


「あけましておめでとうございます。今年も何卒よろしくお願いします」

「おう。よろしくな」


短く挨拶をして乾杯をする。
こうして、俺らは新年をスタートさせた。






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