ジュリエット。
ああ、ごめんな、俺のジュリエット。
凄く好きだったけど、お前のこと守れなかった。
だから、どうか来世では一緒に幸せに―――。
最近、同じ夢を見る。
毎日毎日、ずーっと同じ夢だ。
俺が誰かと対峙していて、囚われた山崎を取り戻さなければいこない。そんな、話。
まるでお伽噺のような陳腐な内容なのに、起きるときは酷く気だるくて疲れきってる。これじゃあなんのために寝ているのか分かったもんじゃない。
肝心の助け出される役の山崎も同じく憔悴しきっているらしい。業務中はお互い欠伸ばかりをしていた。
夢について二人で話したことはない。
天人が江戸に集結し、会議という名の元、権力を誇示する。それが開かれるのがこの時期なのである。
したがって、テロへの警戒や要人の護衛やら接待やら何やら…二人で落ちついて話す時間がないほど忙しい。
とりあえず、一ヶ月。あと一ヶ月だ、と暗示のように唱えながら俺は仕事をしていた。
血まみれの山崎が、俺の膝枕で寝ている。目の色が濁っている。けど、しっかり俺を見ていた。
もう助からないことは分かる。きっとこいつは。
「山崎…」
「土方、さん…」
「ごめんな…守れなくて…ごめんな」
「悲しま、ないで、下さい。俺、辛く、ないですよ」
「幸せにできなくて、ごめんな…っ!!」
「俺は、幸せ、でした…よ?貴方の傍にいられて…しあわ、せ…」
「山崎?…………やまざ、」
「副長!!起きて下さい!!それは夢です!!」
山崎の叫び声でパチリと目覚めた。自分の息が荒いのが分かる。寝汗までかいているようだ。ボヤける視界に映ったのは…愛しい人。
「随分魘されてました。良かった、間に合って」
「これ、は?」
「ああ、まず着替えが入りますね。それから水も」
女房のようにテキパキ世話を焼かれながら、チラリと時計を見る。いまだ夜中と呼べる時間帯。何故こいつはこんなところにいるのかと考えているうちに、山崎は俺に向かいあうように正座していた。
「俺が死ぬ夢を見ましたか」
「…ああ」
「あれは、俺らの前世の夢なんだそうです。俺も、知ったのは昨日なんですが」
どこかの占い師に教えてもらったらしい。見ている夢のことについて。
金持ちの息子であった山崎を二人の男が取り合いし、相手が山崎を刺し違えたらしい。その後、怒り狂った俺は相手を殺し、山崎が息を引き取ったのを見て自殺したのだと。
「死ぬとこは夢見ちゃなんないって言われてたんで、起こしに来ました」
ヘラリと山崎は笑ったが、目の下の隈のせいであまり良い笑顔ではなかった。一つ舌打ちをして、俺は奴に手を伸ばした。布団に引っ張り倒して自分も添い寝する。
「寝るぞ」
「…ん?」
「あんな夢なんかに起こされて腹立たしいとこの上ない。したがって、俺もお前も寝坊する権利があるはずだ。なんか意見は?」
「…ありません」
素直に答えた山崎は少しだけ可笑しそうに笑って俺に抱きついた。そのまま目をつむる。それにならって、俺も優しく山崎を抱きしめた。
「なあ、お前は幸せか?」
「もちろん、幸せですよ」
「そうか」
「ねえ、俺が死んでもあとは追わんで下さいね」
「ああ、」
頷きながら、けど死ぬまで追い続けるだろうなと思った。
可愛い可愛い俺のジュリエット。どうか、俺の横で幸せに笑っててくれ。
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