熟年夫婦。
「あ、」
「はい、どうぞ」
土方が呟くと即座に山崎は即座に煙草を渡した。それを満足げに受け取って土方は口に含んだ。すれば、山崎が自然な動作でそれに火を付ける。
流れ作業のようなそれを見ていた俺は、もう既に自分の作業(ラケットの手入れだ)に戻っていた女房のような男に声をかけた。
「なんで今ので分かったんだ?」
「ん?だって、新しい箱開けて半日立ったから」
「へ、へえ…」
「見てれば分かるよ」
実に楽しそうに(きっとラケットが磨かれてるからだ)答えた山崎に恥じらいとか初々しさとかは感じられない。
と、今度は新聞を読んでる土方に訊ねてみることにした。
「なあ、」
「あん?」
「なんで意志の疎通ができてんだ?」
「そりゃあれだろ。長年の勘って奴だ」
「…はあ」
納得したようなしてないような複雑な気分だ。が、しかしどや顔を見るのが嫌なのでそれ以上は追求しないことにした。
今なら少し沖田の気持ちが分かる。バズーカでこの部屋をぶっ飛ばしたい。
やってられねえ。膨れながら、部屋を出るべく立ち上がった。
「あ、ハゲ」
「誰がハゲだァァァ!!」
「あとで買い物行こうね。副長にプレゼント買うから付き合って」
「もう好きにしてくれ!!」
渾身の力を込めて障子を閉めて、今度こそ部屋をあとにした。
「おい、」
「今日は11月22日ですよ、土方さん」
土方の言わんとするところが分かってしまう山崎はヘラリと笑って質問(するであろうこと)に答えた。
もはや熟年夫婦のような間にツッコむハゲはこの場にいない。
土方は暫く思案するような顔をし、やがて煙草の煙を吐きながらニヒルに笑った。
「そんなお祝いしなくても充分だろうが」
「無粋ですねー。こういう時は黙って見送るもんでしょうが」
「お前は本当に何を考えているか分からん」
「俺は土方さんの考えること分かりますけどね」
相変わらずへらへら笑うもんだから、怒る気は起こらなくて、ただ呆れたような顔で山崎を見る。すると、山崎はまっすぐ俺を見つめ返して、幸せそうな顔で口を開いた。
「伊達に見てませんから」
「さすが監察って褒めてほしいのか?悪いが見てる時間なら俺の方が勝ってるぜ」
「はいはい」
子どもを軽くいなす調子で言った山崎は、軽い動作で立ち上がって土方に近づく。ジッとその様子を見る男をよそに、彼は髪に手を伸ばした。
どこで付いたのか、髪の毛に付いていたらしい羽をつまんでフッと吹き飛ばした。
「…十四郎さん、」
「帰ってきたら夕飯行くぞ。ラーメン屋だろ」
山崎が何か言う前に遮って言えば、彼は嬉しそうに笑って一つ頷いた。
今日は、いい夫婦の日。
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