愛しい貴方。
俺は土方さんが好きなのかもしれない。
かもしれない、というのは、同時に殺したい気もするから。
沖田さんが土方さんを戯れで殺しに行くような、「ちょっと殺ってくるわ」みたいなノリではなく。
近くにいれば、ナイフで滅多刺しにしたくなるような衝動。
おかしい。俺とあの人は好き同士で付き合ってる筈なのに。
ど う し て も 殺 し た い 。
「ねえ、」
それは午後の穏やかな時間。二人で柄にもなく待ち合わせなんぞして、繁華街へ繰り出した日。
茶屋で休憩しながら、俺は土方さんの傍に寄る。先ほど食べた、甘い密の匂いを漂わせて。
誘うように甘く、引き込むように強く。
秋もいい加減本格的に深まって、木々が色づいてきた季節だった。
どうしようもない愛しさと、表裏一体な殺意はまだ消えない。
「貴方を殺せば満たされますかね?」
「……」
答えは返らない。答えなどそもそもない。
これは俺の問題で、土方さんが解いても答えは出ない。
いつでも喉笛に噛みきれるように、土方さんの肩に顎をのせた。彼は動かない。ただ、俺の頭を少しだけ撫でた。
その手が酷く嬉しくて。―――同時に振り払いたくなった。
誰か、この感情をどうにかして。
「愛しさ余って憎さ百倍ってな」
ポツリと彼が呟くのに合わせて雨が降りだした。最初は静かに、しかし直ぐに激しくなる。
俺らは動かなかった。外で雨に打たれたまま、石のようにそこにいた。
お客さん、という声が何処からか聞こえる。このままにしてくれ、と彼は答えた。愛が溢れたような声だった。
殺すなら彼が無防備な今なのに、体は自然と彼を抱き締めていた。
「…なあ、お前は」
「土方さん、」
「俺をどうしたい」
「俺は、貴方を、」
「お前に殺されんならそれも構わねえ」
「愛してるのに、殺したいんです」
「愛してるよ、退」
「俺も、」
雨はいよいよ本降りになって、容赦なく俺たちを叩きつけた。
だけど、二人で抱き合って、馬鹿みたいに降り続ける雨に濡れた。
「土方さん。愛してます。愛してるから、」
俺のために死んで、というのは傲慢だろうか。
遂に考えるのが億劫になって、放棄した。
土方さんは、黙って俺に口づけた。
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