真夏の休息。



所はむさ苦しくて、気分転換にと中庭に出たのがキッカケだった。


「副長っ!!」


ミントンをしてサボってたらしいバカ…もとい、山崎は俺の姿を見るなり、ラケットを持って走ってきた。楽しそうにしているそいつを、とりあえず殴る。


「てめえ、仕事ちゃんとしろや!!」

「だって、暑いじゃないですか〜」

「うるせえ!心頭滅却すれば火もまた涼し。黙って仕事してれば暑くねえよ」

「じゃあ、副長は暑くないんですか?」


その質問には反論できず、黙り込んでしまう。ついでに、もう一発殴った。

今日は、いやここ最近、気温は30度越えしている。加えて、雲一つない青い空、鳴り響く蝉の声、そよとも吹かない風。
どれ一つ取っても涼しくなれる要素はなかった。皆無に等しいと言っても良い。
そして、屯所にはむさ苦しい野郎共ばかりで、全く「涼」とは程遠い環境である。


「暑いから、見回りしようとしてんじゃねえか」


苦虫を噛み潰したような顔で白状する。
屯所を出てさえしまえば、見回りにかこつけて、なんでもできる。コンビニに入ってちょっと涼んだり、なんならパトカーで海まで行ってしまっても言い訳ができる。

そう、ようは俺もサボりなのだ。人のことを言える立場ではない。
山崎に怒られるのかと少し身構えたが、掛けられた言葉は予想の斜め上をいっていた。


「かき氷、食べませんか?」


ヘラリと笑って、奴はそう言った。





ガリガリガリ…。
風鈴の下で、山崎は一生懸命氷を削っている。ただし、無駄に喋っているが。


「彼処の甘味屋の看板娘、あれに引っかかった隊士がいるそうです。なんでも、貢ぐだけ貢いだ挙句、組の情報までしっかり搾られちまったらしいです。いやあ、女ってのは怖い」

「ふうん」

「この前、俺が潜入した処でも『ガールズトーク』なんて言って、男と金の話ばかり。可愛いのなんて見かけだけですよ。ああ、怖っ」

「へえ」


適当な相槌を打って、煙草に火を付ける。白い煙が空へ消えてくのを眺めながら、ふと考えた。

世間一般から見たら、これはデートと呼ばれるのか。そんな甘いもんに、これが。
…だとしたら、少し照れくさい。

聞こえるのはかき氷を削る音と止むことを知らない蝉の声。
それから、


「土方さん、何味が良いですか?」


恋人の質問に、我に返った。どうやら二人前できたらしい。
ちゃんとシロップの他にマヨが用意されてる辺り、こいつもいい加減慣れてる。

けど、今日は少し違う。


「ブルーハワイ」

「…は?」

「聞こえなかったのか?お前はボケ老人か?あぁん?」

「い、いえ!ただ……俺と一緒なんだなって」


ポカーンとした表情を浮かべた山崎に脅すように言う。『ただ』のあとに続く台詞はきっと違うものだったろう。

白い氷に青い液体をかけた山崎が、チラッとこちらを窺う。それで相手の言わんとすることが分かって、一つ舌打ちした。


「俺だってなぁ、」

「はい」

「たまには、お前に合わせたいんだよ」


だって、そうだろう?
帰ったって男しかいない。休日は重ならない。祭りは大抵警備。

毎年忙しい夏に、偶然できた二人きりの時間。

マヨネーズをかけるのは勿論美味いけど、一杯目くらいは好きな人と同じ味が食べたい。


「マヨでも降るんですかねぇ…」

「うるせえよ!」

照れ隠しか、生意気なことを言うそいつを、またグーで殴った。

自分の頭を撫でる山崎の横で、空より青いかき氷を手に取る。そして、一口食べた。


「…甘えな」

「甘いですね」

いつの間にやらかき氷を食べていた山崎が嬉しそうに呟くのが聞こえた。


暑い夏が、少し涼んだ気がした。







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