マヨリンと君。
「副長、今日はなんの日か知ってますか?」
そう聞いたのは、愛しい自分の恋人。
後ろには隠しきれていない、真っ赤なリボンがチラつく。
可愛いな。知ってんだぜ?
お前がプレゼント用意するのに、新しいミントンのラケット我慢したの。
お陰で、使い古したラケットのメッキが剥げかけてるのをお前は悲しそうに見てたよな。
あん時は分かんなかったけど…今なら分かる。
5月も初旬となると風はもう温かい。そんな風が屯所を吹き抜けた。
春の風を感じながら、俺は煙草の火を付ける。一服してから、一言。
「子どもの日だろ?」
「そうだけど違うんです!!ほら、当てて下さいよー」
彼の中ではきっと俺が「俺の誕生日だからプレゼント寄越せ」とか言うのを期待している。そして、「もう仕方ないですねえ」とか言って渋々渡す計画があるんだろう。
なんで分かるのかって?
愛故だよ。
というわけでは残念ながらなく、昨日の夜中に総悟を相手に練習しているのを聞いたからだ。
すげえ可愛いんだけど、総悟は下心見え見えだから、せめて原田とかにしろ。
「あのですね…ううっ」
困ってる山崎の姿は可愛い。自分から言うのがどうにも恥ずかしいのか顔を赤くして俯いてる。目線は泳ぎまくってて、目を回すんじゃないかってくらい。
紫煙を一つ吐いた。と同時にまた風が吹く。春の匂いが心地よい。そういえば、まだ柏餅を食べていないなとボンヤリ思った。プレゼントを受け取ったら二人で食べに行きたい。
ああ、でも俺の理性が尽きるのが先かもしれない。
こんな可愛い奴を前に耐えろとか生殺しか。誕生日なのにお預けなんざ願い下げだ。
「き今日、お誕生日じゃないですか」
「誰の」
「ふ…っ、副長、の」
ああーマジで可愛い。この場で食べてしまいたい。泣き出しそうな山崎の後ろで包装紙がグシャリと音を立てた。そろそろ意地悪するのはやめようか。
まだ長い煙草を吸い殻に押しつけ、偉そうに手を伸ばしてやった。
「、え」
「俺の誕生日なんだろ?さっさと寄越せよ。早くしねえと日が暮れちまう」
「はいよっ!!」
それはそれは嬉しそうに笑った山崎は、隠しきれていなかった(本人は隠していたつもりであろう)包みを出して俺に渡した。
下手したら俺より誕生日を喜んでるそいつの姿は可愛い。
…ん?俺可愛いって言いすぎじゃないか?
まあ、ともかく、愛おしいことに変わりはない。目の前で満面の笑みを浮かべていたそいつをプレゼントごと抱きしめる。そして、耳元で「ありがとう」と囁いた。
すると、山崎は真っ赤な顔で「お誕生日おめでとうございます」としどろもどろで返す。順番が逆な気がするが、別に構わねえ。
「開けて下さいよ!!」
「っるせ、耳元で叫ぶな馬鹿!!」
興奮しているらしい山崎が抱きつきながら言ったもんだから耳が痛い。体を離して一発殴ると山崎は「いでっ」と間抜けな声を出した。
まあ、確かに開けなければ意味はないだろう。俺はすっかりしわくちゃになった包装紙を丁寧に開けた。
「土方さんは破かない派なんですね」とからかうように言われたので、もう一発殴っておく。
「…マジか」
「マジですよ。朝5時から並んだかいあったでしょ」
偉そうに山崎が言ったことは半分も耳に入ってない。俺は汗ばんだ手を吹いて恐る恐るそれを抱き上げた。
多分、今思い切り破顔してるぞ俺。
山崎が俺にくれたのは、マヨリンの人形だった。限定品で仕事が被ったので泣く泣く諦めていたものだ。
「おまっどうしてこれ…」
「愛の力です」
勝ち誇って言う姿は誇らしげで。なんか、人形も良いけどそれより。
「やっぱりお前は最高だよ」
「ありがとうございます!!」
こうして二十数回目の俺の誕生日はまた幸せなものになる。勿論、こいつのおかげで。
「来年も一緒に過ごしましょうね」
そして、来年もきっと。
戻る