Sleep with you.



多分、不眠症ってほど大袈裟じゃない。
ただ、そろそろ本格的に先輩としてのプレッシャーがのしかかってきただけ。
生活に特に変わったわけでもないけど。
本気で最近眠れてない。





「…山崎、」

「はいよ?」

「酷ぇくま」


仕事の打ち合わせ中、副長は小さく呟いて俺の目の下をそっと触った。
人に見られたらどうすんだよ、と思いつつもヒンヤリした指先の心地よさに払いのけることができない。

わざわざファミレスを指定したのは、イチャつきたかったからかもしれない。
なんて、若干自惚れてみる。

もしそうなら自分と一緒だな、と少し嬉しくなる。
年度の初めは新入隊士の指導にお互い忙しい。
土方さんは勿論そうだし、俺も例外なくそう。


「寝てねえの?」

「あーいやあ…。なんか、ちょっと物音するだけで起きちゃって」


神経質になってるかも。ヘラリと笑いながら言えば、土方は眉をひそめた。
綺麗な顔の人が眉をひそめても綺麗なままなんだなぁとなんとなく思う。


「いけねえな」

「へ?」

「うちの筆頭監察が睡眠不足とあっちゃあ取れる情報も取れねえ。ちょっと休め」


言うなり、飲みかけの珈琲を飲み干して土方さんは立ち上がる。唖然とする俺を立たせ、伝票を取り、手を握ってレジへ並ぶ。

手を握る必要性ってなんだ。いや、別に嫌じゃないし、むしろ嬉しいんだけどさ。
脳内パニックになっているうちに、会計を終えたらしく俺の手を掴んだまま店を出た。


「でもっ、副長お仕事は?」

「あー…サボりだな」


そう言う声は思ったよりずっと『恋人』らしくて、俺は思わず小さく笑んだ。
仕事中の彼は上司として好き。だけど、恋人の彼はもっともっと大好き。


「土方さん、」

「んだよ」

「一緒にお昼寝しましょうよ」

「は?何言ってんだよ馬鹿」

「なんか土方さんとなら寝れる気がする」


それは一緒にいる安心感か温もりの心地よさなのか。

どちらにしろ、一緒だったらぐっすり眠れそうだった。







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