第一回。

それは、とても穏やかな昼下がりだった。
世間がクリスマスムード一色へと変わり始めて、ようやく冬を実感し始めていた頃。

「今年は、一緒にクリスマス過ごせますかねえ」

お茶をすすりながら、山崎が呟く。お昼はまだ日差しが温かく、縁側でお茶をするのにはちょうどいい気温だ。
明日から、山崎は潜入に行くことになっていた。その仕事が終わるのはきっと、そのくらいの時期だろう。

「クリスマスに終わったってしゃーねェだろィ。そのあとの討ち入りが大切なんだぜ?」
「あー、そうですね。非番の申請が通っても、出動が被っちゃあねえ」
「しかも、土方が俺らの有給申請受け取るかが謎だし」
「日頃の行為が裏目に出ますね」

土方は、俺とザキの関係に気づいているようだが、直接何か言われたことはない。知っていると言って二人揃って休みにしてくれるとも思えないし、せいぜい定時上がりが関の山だろう。
それでも、もし叶うのだとしたら。

「今年こそは、オメーの横で過ごせたらいい」

付き合い始めて三年目になるが、なんだかんだで、12月25日は走り回っているせいで、一緒にいられたことがない。当然だ、幕府直属の組織は世間のイベントを楽しむ暇もなく、師走の忙しさに追われているから。俺ですら、年末にサボれた試しがない。
ただ、もし、深夜でもなんでもいい。世の恋人たち愛を確かめられる日に一緒にいられるなら。
そのときは、いつも以上に愛したいと、そう思うのだ。

「まあ、クリスマスにこだわる必要はねーけど」
「そうですね。俺もそう思います。けど、せっかくなんで、二人で…とか、は、ははっ」

言っているうちに、恥ずかしくなってきたらしい。顔を赤くして俯いた山崎に、釣られて顔が熱くなる。寒いからと羽織った上着を脱ぎ捨ててしまいたい。くそ、かわいい顔しやがって。

「今も一緒にいるぜィ?」

隣にあった山崎の手に、そっと自分の手を重ねる。ああ、こんな行為、暇つぶしに入った満喫の少女漫画でも見たことがない!
ザザッと音を立てて、冷たい風が吹きぬける。寒いはずなのに、重ねた手だけが異様に熱い。逃がさないように、少し手に力を込める。
山崎は、驚いた顔をこちらに向けると、少しだけ泣きそうな表情をして。

「はい。…隣にいられて、幸せです」

噛みしめるように、山崎はそう言って、こんな幸せがいつまでも続けばいいと本気で願った。


山崎と連絡が取れなくなったのは、それから五日後のことだった。