ぎんたん!。

「あー、飲みすぎた…」

フラフラしながら、家の外に出る。部屋の中には、大勢の奴らが宴会のために遊びに来ていた。
誕生日だからと、連中がお祝いに持ってきたのは、酒だのつまみだの明らかに自分たちが楽しむためのもので。
いったい、何しにきたんだと怒鳴ってみたものの、やっぱり楽しくて、つい飲みすぎてしまった。

地面がグラグラと揺れて、だいぶ体調が悪い。何度かトイレで吐き出してはみたものの、明日はきっと二日酔いだ。

「あーあ…」

欄干に寄りかかって、ため息を吐く。具合は最悪だが、気分はそんなに悪くなかった。
神楽が、ババアのところでお手伝いをして、小さなケーキをくれた。新八は、いつもより50円も高いイチゴ牛乳を買ってくれた。
周りから見れば些細なことかもしれないが、自分にとっては最高のプレゼントだ。
他の奴らも、素直じゃないわりに、一応お祝いの言葉をくれたりして。
だからまあ、照れくさいが、幸せなのだ。この年になって何を、と自分でも思うけど。
もうそろそろ、日付が変わる。今年もいい誕生日だった。
そう思っていると、ふと人の気配がして、顔をあげる。

「え…」

向かいの家の屋根に、黒い人影が見える。月を背に、目立たないようにしゃがみこんでいて。頭まで布で覆っているが、目だけがギラギラと光っている。その瞳に、見覚えを感じて。

「やま…」

名前を呼ぼうと口を開く。
その途端、黒い刃物がこちらをめがけて飛んできた。
ガッと鈍い音を立てて、欄干に刺さったそれは、忍びの武器であるクナイだ。
投げた人物は、屋根の上のアイツだ。

「…っぶねーな!!てめっ、山崎!!ふざけんなよ!!」

もうあと数ミリずれていたら、確実に俺に刺さっていた。誕生日が命日なんざ冗談じゃねえ。抗議の声を上げるが、まるで聞こえないかのように、男は去っていく。

「あ!おい!聞いてんのかよ!!弁償しろよォォォ!!…ったく」

今ので、酔いがだいぶ醒めた。一応、賃貸なんだから、傷をつけるのはやめてほしい。ババアに見つかる前に、なんとしてでも弁償してもらわなければ。

それにしても、どうしてこんなことをしたのだろう。今日は仕事があると申し訳なさそうに言っていたのに。あそこまで来たなら、声を聞きたかった……なんて、思ってない。断じて思ってない。

そこまで考えて、クナイに文が括られているのを見つけた。物騒すぎて気づかなかった。刺さったものに手をかけて、引き抜く。

「なんだぁ?」

綺麗に折り畳まれたそれを広げる。すると、白い半紙の端っこに、小さく一言だけ書かれていて。

「……おいおい、こういうのは直接言えよ」

恥ずかしくて憤死してしまいそうだ。だけども、アイツがどんな顔してこれを書いたのか、想像するだけで、口角がつり上がる。きっと、手紙なのに、顔を真っ赤にしたに違いない。
今度会ったら、これをネタにからかおう。それで、まあ、お礼がてらに俺の気持ちを教えてやってもいいかもしれない。

ああ、本当に、今日は素晴らしい日だ。

『お誕生日おめでとうございます。愛してますよ』