穴空き。



「沖田隊長!!これ、どういうことっすか!!」


シャツ姿の山崎がバタバタと一番隊執務室に走ってくる。幸い、中には沖田しかおらず、手に握ったものを広げ、仁王立ちで睨み付けた。当の本人は、あぐらをかいて、面白そうにニヤニヤと笑うだけである。


「昨日、作ったんでさァ。どうでィ」
「最悪です。これでどう仕事しろってんですか!!」


山崎が広げたのは、普段着ている隊服の上である。ただし、両乳首のところに、五百円玉ほどの穴が空いている。
山崎の周りでそんなアホなことをするのは、一人しかいない。


「なんでィ、なんか文句でも?」
「いやっ、そりゃ、これじゃ、仕事が…っ!!」


威圧感満載の沖田に、山崎がたじろぐ。しかし、引くことはできない。山崎の着ているサイズは組でも一番小さいもので、他の人に借りることができない。何せ、がたいがいいのだけが取り柄の男たちが集まっているから、山崎や沖田のように、身長が高くなく、いわゆる細マッチョな男は他にいないわけで。
そして、組の服は発注してから届くまでに三日はかかる。


「あーあ、せっかくザキのために空けたのになー。頑張っちゃったのになー」
「そんなこと言ったって、」
「俺に逆らうのかィ」


サディスティックな雰囲気満載でそんなことを言われてしまえば、もう山崎に逆らう手段は残されていない。
あまり、機嫌を損ねたくはないので、元々、意味はないだろうな、とうっすら感づいてはいたのだ。文句の代わりにため息をついて、ようやく沖田の隣に座った。


「でも、なんでこんなことしたんですか?」


純粋に疑問に思ったことを投げかけると、実に単純な――それでいて、全く意味の分からない――答えが返ってきた。


「乳首、見るために決まってんだろ」
「は?」
「昨日、一番隊で見たAVが乳首萌え?だかなんだかだったんでィ。女のやつより、お前のが百倍見たい。そんで、身近にあるから、弄りやすくて楽しい」
「それ、後半が本音でしょ…」


くだらないようなそうじゃないような回答に、呆れてしまう。乳首空きの隊服を作るのに大層な理由があっても困るのだが、そんな理由で作られても困る。隊服だって安くはないのに。
あと、隊でそんなくだらねえもん見てんじゃねえよ、とツッコみたい。のだが、監察方も暇なときはロクなことをやっていないので(毒を作ったり、トラップを作ったり、機械の解体をしたり、あげていくとキリがない)黙っていることにした。
結局、平和な証だよな、とムリヤリ気持ちを納めた。


「てか、隊服の下にシャツ着るんで、乳首とか見れませんし」
「切る」
「はあ!?」
「シャツは、隊服着てから切る予定だったんでィ。ハサミが直接当たって怯えるお前の顔がおもしろそうで」
「いや!!いやいや!!それはさすがに…!!」


ないだろ、とは、言い切れなかった。何せ、天下のサディスティック星王子さま。いざというときはそれくらい平気でやる。
何より、こちらを見る目付きがどこまでも本気だった。愉しそうに歪んだ口元が、なんかのスイッチを入れてしまったらしいことを示している。
まずい、と思うのに、逃げれないのは、何故なのか。


「まあ、てめェにゃあ乳首の良さが分からねえみてェだし、無くてもかまわねェだろ?」
「え、いや、」
「ハサミが当たって、うっかりなくなっちまうかもしれねェが…それもおもしろそうだねィ」


用意していたのか、陰から裁ち鋏を持ち出した沖田が、ニッコリと黒い笑みを浮かべた。山崎は、額から汗が流れ落ちたのを感じた。


「まあ、まずはせっかく用意したんでィ。その制服を着ろ」
「沖田、隊長」
「安心しな。一番隊は今見回りだから、しばらく帰ってこねェや」


爛々と目を輝かせた沖田に、山崎が逆らえるはずもなく。
何より、ハサミの冷たい金属を想像して、体が嫌がらなかった。
自分達は、なんやかんやで相性が良いらしい。
心の中で苦笑しながら、山崎は、渋々を装って、穴空き隊服に袖を通した。



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ドS全開な沖田さんと実はノリノリな山崎さんが一番大好きです