※学生設定
「お前、何やってんの」
冬の買い出し寒いなぁ、と深夜の夜道を歩いていた時のことである。 後ろから聞こえた声に振り向くと、付き合い始めたばかりの恋人である土方先輩がいた。マフラーもせず、ダウンと寝巻きだけで出てきたらしい。
「罰ゲームでコンビニまで使いっぱしりです。先輩は?」 「あー、俺も似たようなもんだ。ジャンケンで負けた」
土方先輩が横に来るのを待ってから、一緒に歩き出す。コンビニまであと数十mといったところか。一人なら寒いだけの道だが、二人ならほんのり心が暖まる。
「先輩は二人分だからいいじゃないですかー。こっちは四人分っすよ」
俺らの高校は全寮制で、二年生までは四人一組で部屋が振り当てられる。土方のいる三年生だけが受験勉強に専念することを理由に、二人部屋がもらえることになってるのだ。
「四人分は多いよな。毎晩、馬鹿にならねえ量食うしなぁ」 「そうなんです!しかも、体育会系集まっちゃったもんで、規格外」
部屋割りには友人関係や性格を多少考慮されているらしく、バトミントン部に所属している山崎は、あっさり体育会系の部類に入れられた。 土方は土方で、犬猿の仲である坂田と同じ部屋にされ、大変みたいだが。
「あーあ、土方さんと同じ部屋だったらなぁ。アイツらうるさくって、ゆっくり勉強もできねえんですよ」
プリプリ怒ると、苦笑しながら頭を撫でられた。それだけで機嫌が治るんだから、俺も大概安い。 いやいや、でも土方先輩に頭撫でられるのは安くない、か? などと考えているとコンビニに到着した。一旦別れて、お互いに頼まれたものを買う。 俺の方が買い物を終えると、土方先輩は雑誌コーナーでマガニャンを読んでいた。声をかけようか悩みつつ近づくと、一瞬早く気づいた先輩が顔を上げる。「終わったか?」と聞かれ、待っていてくれたことに気づく。間髪入れずに頷いた。
「行くか」 「はいよ」
店を出て、また二人で肩を並べて歩く。先輩の方は荷物が少ない。何を買ったのか聞くと「アイスだ」実にシンプルである。
「先輩も甘いもんとか食べるんですね。なんか、意外」 「食えるのと食えねえのがあんだよ。シンプルなやつとかは好きだ。……こたつの中入ってたら、無性に食いたくなったりすんだろ」 「あー、分かります。温かい部屋で食べるから旨いんですよね」
それでも、アイスを食べる土方先輩ってのは意外だったな。心の中でバッチリメモを取っておく。 それから、なんとなく会話が途切れて、無言で道を歩いた。ちょうど人通りが少ない時間だからか、周りには自分達しかいない。それを意識すると―――もうダメだった。 あれ、俺いつも先輩と何喋ってたっけ。一気に頭が沸騰する。落ちつけ、大丈夫だ。落ち着いて、素数を数えるんだ。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10……。 平静を保とうと努力していると、右手を握られた。ビクリと肩を跳ねさせ、横を見ると、土方先輩は真顔だった。視線は前を向いたままである。
「だめか」 「い、いえ!!」
確認に、応える声は裏返ってしまった。少しだけ、土方さんが表情を崩す。ああ、かっこいいです先輩。 左手で荷物持ってて良かった!!数分前の自分に、惜しみのない称賛を。 手が、汗ばんできてるけど、もう今は気にしないことにしよう。今離したら、また繋ぐチャンスはない。あとで、土下座しよう。 そう心に決めながら、自分より一回り大きな手を握る。返事するように、土方先輩の方も力をこめてくれた。
「あの…よ」 「はい」 「さっき、部屋がうるさいつってただろ」 「そうですね」 「あんまりうるせえなら、俺の部屋来い」 「えっ!?」
思いもがけない申し出に、ビックリして先輩の顔を見上げた。先輩の方は、顔が少し赤い。それは、外が寒いからか、もしくは、照れているのか。自惚れてる?なんとでも言え!
「坂田は部屋にいねえことの方が多いし、俺も受験は終わってるしな」 「い、行きます!!」 「そうか。なら、いつでも来い」
ふわりと笑った土方先輩の顔があまりにも優しくて、思わず目眩がした。女子がアイドルのコンサートで倒れかけたって言ってたけど、こういうことか。 俺の恋人、本当男前。
「あとな」 「はい」 「あんまり簡単にパシリ使われてんじゃねえよ」
お前は俺のだろうが。 今度こそ、本当に倒れるかと思った。 ちょっとブスッとした表情が、―――かわいい。 自分より男前で高身長のイケメン先輩に抱く感情としてはおかしい気もするが、それ以外の形容詞は見当たらない。 小さな焼きもちが嬉しい。寒さに引きつっていた頬がゆるむ。
「気をつけます」
短くそう答えると、乱暴に髪をかき混ぜられた。
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