さかたん!。

だから、祝うんですよ。お誕生日おめでとうございます、と。


―――ああ、そうだ。あれはいつのことだったか。
俺の頭を撫でながら、優しく言ってくれたのは、先生だった。
誕生日会なんていらない、そんなの馬鹿馬鹿しいと一人裏山に逃げ込んだ俺を探してくれて。管理も行き届かぬようなお寺で、教えてくれたこと。


あなたがいてよかった。あなたに会えて良かった。こうして、あなたの横であなたと話せて嬉しい。それを伝えるための素敵な日なんです。
生まれてきてくれて、ありがとう、銀時。



あの人に銀時と呼ばれるのはひどく心地よかった。
本当に、幸せで胸がいっぱいになって(恐らく、人生で初めて)なんだか心がポカポカした。
先生がいなくなってからも、誰かが必ずお祝いしてくれた。戦時中は仲間がいた。ババアが無愛想に酒をおごってくれて、新八と神楽がささやかなパーティを開いてくれるようになった。
年を重ねるごとに、おめでとうと言ってくれる人が増えた。普段は軽口の応酬でも、必ずお祝いしてくれた。


それは、躰の関係にとどまる、俺が大好きな、この地味な男も一緒らしい。


「……明日、誕生日ですよね。おめでとうございます」


躰を交えたあとの心地良い気だるさの中で、シーツに身をくるんだ山崎がそう言った。窺うようにこちらを見上げる視線のなんと可愛らしいことか。
彼が俺の誕生日を前日に祝うようになってから、何年も経つ。当日は家族水入らずを邪魔してはいけないから、というのが理由らしい。そうして、本当に誕生日当日に会いに来たことはなかった。


「どーも。今年もお前が一番だ」
「まあ、そのための前日予約ですしね」


勝ち誇ったような笑顔を浮かべる山崎の額を真顔で小突いた。

俺と山崎は恋人同士ではない。お互いの一番になれないのはいやだ、と山崎は頑なに首を横に振る。そうして、都合の良いときだけ都合がいいように一緒にいる関係が出来上がっていた。もちろん、お互いに淡い恋心のようなものは抱いている。
山崎は、とても真面目な男だった。その反面、常識にとらわれないような部分もあった。そんな男だからこそ、こんな緩い関係が続いているような気がする。

少しだけ意地悪をしたくなって、からかうように聞いてみた。


「オメーは、誕生日とかどうでもいいって言うタイプだと思ってた」
「やだなぁ、そんなことないですよ」
「そうか?」
「誕生日はね、好きだよって思う存分言える日だから」


照れ臭そうにしながら、山崎は自分の手を俺の手に合わせた。ゆっくり指を絡ませながら、優しい声で言う。
―――それは、いつかの日に先生が教えてくれたように。


「旦那が、生まれてきてくれて、今まで生きていて、こうして俺の横にいてくれて……それってスゴく低い確率の、いわば奇跡ってやつだと思うんです」


ああ、やっぱりコイツを好きでいてよかった。目を閉じ、彼の言うことにジッと耳をすましながら思う。


「そんで、俺の大好きな旦那が生まれてきてくれて、ありがとう。今日まで生きられて、おめでとう。これからもお願いしますって、全部全部伝えられますから。だから、やっぱりお誕生日って大切ですよね」
「……ありがとな」
「いいえ。来年も祝わせてくださいね」


目を開けると幸せそうに微笑むソイツがいて、温かな気持ちのまま、その唇にキスをした。




―――Happy Birthday, Gintoki!!!







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お誕生日おめでとう、坂田!!