パジャマ。



「これだけは譲れません!!」

「バカ崎がァァァ!!!」

なんでそんなことを言い出したのかと聞かれたら、長い事情があるのだが。
半ば混乱している俺の脳みそのためにも、整理をつけよう。




―――……なんてことない、デートのハズだった。
明日は久々に(付き合ってからは初めて)土方さんと俺の非番が重なる日だったから、じゃあ飯でもみたいな話になって。
歯の浮くような甘い台詞の羅列を、酒を入れながら囁いた、そこまでは良かった。
お互い、千鳥足でラブホに向かった、それも恋人同士ならありえないパターンじゃない。

けど、いざ押し倒された時に気づいてしまったのだ。


「副長、タンマ」

「はあ?今更なに言ってんだ山崎斬るぞゴラ」

「いやっ、すいません!!でも、今日は無理なんです勘弁して…ブベラッ!!」


言い訳をする前にぶん殴られる。とりあえず、解放はされたけど、土方さんは明らかに不機嫌に見えた。
あぐらをかいて煙草を吸い出した彼の横で俺は正座をし、そんな空気ではなかったが弁明を試みる。


「寝巻きが、」

「は?」

「寝巻きがないんです!!俺ァ決まった寝巻きじゃねえと、寝られないんです!!これだけは譲れません!!!!」

「バカ崎がァァァ!!!」


勢いに任せて言えば、もう一発殴り飛ばされた。
……そして、今に至る。






「あのなあ、それくらい融通効かねえのかよ。いま、絶対に良い雰囲気だったろ。空気読めや。空気みたいな山崎略してKYだろうが」

「副長、それ最早ただの悪口です」

「バカにしてんじゃねえよ。たかだか寝巻きくれえでなあ…」

「土方さん、」

確かに、恋人と初めて過ごす夜に対してあまりにも酷い仕打ちかもしれない。だけど、それでも。


「あの寝巻きじゃなきゃダメなんです。他はなんでもいいし、構いやしませんよ。例え、アンタが風呂はマヨが良いとかフザけたこと言っても、まあそりゃできれば嫌だけど付き合いますよ」

「じゃあ、付き合え」

「けどね、寝巻きだけはダメなんです。あれじゃないと寝られねえんです」


必死に訴えれば、土方さんは諦めたようにため息をついた。分かった、と短く呟いて、俺を抱きしめる。心地がいい、大好きな感触。


「で、なんでそんなにこだわんだよ。つーか、特別なもん着てたか?」


至極当たり前の質問に、俺は居たたまれなくなって土方さんの肩に顔をうずめた。かなり恥ずかしいのだけど、ここまで頑なならば何か言わなければ申し訳が立たない、気がする。
暫く悩んでから、俺は口を開いた。


「副長がくれたお古だから」

「…は?」

「だから、匂いとか染み着いてて、安心してそればっか着てたら他のが着れなくなって、だから、」


我ながらひどく馬鹿げたことを言ってるのは気づいている。だけど、それが事実だから仕方ない。
笑われるのかな、と思って身構えたら、思いに反して土方さんは俺の額にキスをして―――そこからの行動は早かった。


「取ってきてやる。待ってろ」


短く言って立ち上がった彼は、本当にそのまま部屋を出ていってしまった。どうすればいいのかは分からないが、分かったのは一つだけ。


「お弁当取りに戻る小学生か」


口に出して言えば、それは滑稽で―――同時にとても微笑ましくて、俺は広すぎるベッドにダイブして彼を待つことにした。
戻ってきたら何を言おうか考えながら。


土方さんが帰ってくるまで、あと10分。