ジュース。



※現代パロみたいな







俺たちの関係性を正確に定義してくれる言葉はきっとないのだろうと思った。


「ザキぃ、ジュース」

「はいはい」


いつも一緒にいるわけじゃなかった。立場が違う。相手は社会人で、自分は高校生。長期休みの時ですら、あまり会わない。会う必要性すら感じない。ただ、なんとなく来たいときに来る。


「こぼさないようにね」

「ガキ扱いすんな」


目の前に置かれたオレンジジュースは、みずみずしい色をしている。それを、なんの惜しげもなく半分ほど一気に飲んだ。
山崎は山崎で、俺の様子をボーッと眺めてから読んでいたテキストに目を戻した。何やら資格を取らなければならないらしい。


「沖田さんがね、」

「あ?」

「小学校を卒業したら、来なくなっちゃうかと思ってました」


なんの前触れもなく山崎が言う。可笑しそうに口角を釣り上げていた。「こんなおっさんのとこなんか、」先ほどと同じトーン。


「三十にもなってねェやつの何がおっさんでィ」

最近は、社会人になると容赦なくおっさんって呼ばれちゃうらしいですよ」

「下らねェ」


今度は一口だけ、橙色の液体を飲む。甘い感触が口全体に広がった。最近はその感覚が苦手だ。どうにも口がベタついてかなわない。ジュースを飲むのなんか、ここに来たときだけなのだ。


「……ザキぃ」

「はいよ」

「俺たちの正しい関係性はなんでィ」


無茶苦茶な日本語のような気がする。山崎は顔をしかめた。
答えるのが難しいような関係なのに、


「友達でも恋人でもあるめえし、卒業したくれェじゃあ変わりやせんよ」

「…はあ、それもそうですね」


光に反射してオレンジジュースが仄かに淡く色を移す。白いテーブルに、それはよく映えた。
自分がここに来なくなるのが想像できなかった。いつか進学でも就職でもしてこの町を離れるとき、近藤さんや土方さんと離れるのは想像できる。でも、ここに来なくなる未来だけはどうしても分からなかった。


「関係に、名前が欲しいですか」


山崎が静かに問う。何かに怯えているのを必死に隠している顔だった。この大人は、自分より感情の振れ幅が大きい。感受性が強いのだ。
暫く、答えを探してみたが、結局首を横に振る。


「アンタが望まねえなら、いらねェよ」


それは本心からの言葉だった。ダチでも彼氏彼女でもない、この距離感が好きなのだ。それに、山崎が望まないなら別に名前なんてどうだって良い気がした。
ホッとしたように彼が表情を緩める。それから、恥ずかしそうに頭を掻いた。


「名前が付いたら、終わっちゃいそうな気がして」

「終わりのねェもんなんざあるかィ」

「ありませんよ、そりゃ。でも、少しでも長く続いたらいいなって」


そうやってハニカミながら笑うから、ああじゃあ名前なんていらないやと投げ出してしまう。あとは考えるだけ不毛だ。答えが見つかったって、どうせ意味などないのだから。それを彼は望まないから。
だから、考えることを放棄した。


「ザキぃ、ポテチ食べたい」

「はいよ。今持ってきますね」


不確かな距離感が、今の俺らの関係性だ。