「生まれ変わったら、」
そんな話題を山崎が持ち出したのは、冬も深い12月の初旬の昼休憩中だった。 これから大晦日に向けて忙しくなるというのに、何をのんびり話し始めるのかと土方は飽きれ半分に聞いていた。
「もうお侍さんは勘弁したいですねえ」
「…それァ今の仕事に対する不満か?嫌なら切腹しろや、介錯はしてやる」
「いえいえ。仕事は楽しいですよ。でも、田舎でのんびり農業やって暮らすのも悪くはないでしょう?」
湯呑みに入った熱いお茶をゆっくり飲みながらヘラリと笑う。江戸でしか暮らしたことのない彼にとって、田舎は憧れの対象なのかもしれない。
「でも、組のみんなと別れるのはいやですよね。みんなと一緒にばか騒ぎしてたいですし」
「生まれ変わってもツルんでんのかよ」
「いやですか?」
「……知るか」
口では素っ気ないことを言いながらも、それもまた楽しいだろうと土方はボンヤリ思う。死ぬまでずっと一緒に居たいとでさえ考えてる。だから、山崎が自分と同じことを思っていることが照れ臭くも嬉しい。 彼はどこか遠くを見ながら話を続けた。
「そしたら、やっぱり局長と副長と沖田さんがいて。三人でワイワイやってるとこにみんなが集まるんです。そんで、女がどうだとか酒がどうだとかくだらねえ話ばかりして」
また貴方と一緒になりたい。 小さな声が聞こえた。
「……お前、」
たったそれだけのことを言うためだけに持ち出した話のようだ。ちょうど空になったらしい湯呑みを持って立ち上がると「た、隊務に戻りますっ!!」と真っ赤な顔で言った。
「待て」
短く命令すると襖に手をかけていた山崎は土方に背を向けたままピタリと止まる。
止めたはいいものの、なんて声をかけようか迷う。 言いたいことはたくさんある。何か言った方がいいことも分かる。
そんなことわざわざ言うなんて馬鹿じゃねえかだとか。俺も来世で会いたいだとか。お前に農業は無理じゃねえのだとか。道場に集まるってゴロツキ時代と変わらねえんじゃねえのだとか。
だから、全部全部まとめて伝えることにした。
「……生まれ変わったらなんかに頼るつもりはねえが。もしできんなら、また真選組やった方が会える勝率は高いんじゃねえの」
「ふくちょ…っ!!」
「以上!!今すぐ仕事に戻りやがれつ!!斬るぞ!!」
「すみません!!戻りますっ!!」
怒鳴って、赤くなった顔を見られないうちに慌てて追い出す。 廊下を走る山崎の足音は心なしか軽く聞こえた。
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