銀誕。

※ホスト金時×高校生山崎



俺の恋人はアホである。


「今夜も来てくれてありがとう、俺の可愛い子猫ちゃん」

「キャー!!金さーん!!」


それを取り囲む女共もアホである。
きらびやかな格好で夜の街を颯爽と歩く姿は、子どもな自分と違って様になっている。アホなのに。いつも子どもみたいなこと言ってるのに。
そして、制服姿の俺はその場にあまりにも不釣り合いで泣きそうになってしまう。
所詮は地味な男なのだ。大人だろうが子どもだろうが、こんな場所に来る資格はない。
それでも、もし許されるならば。


「山崎じゃねえか、どうしたんだ?」


店から出てきたのは、金時の同僚で俺の高校の先輩だった(今はOBだ)土方である。煙草を片手に、黒いスーツ姿が妙にはまっている。
店の前で呆然と立ち尽くしていた俺は苦笑して紙袋を差し出した。


「旦那に渡しといて下さい。俺からってのは内緒にして。捨ててくれても構いませんから」


本当は、直接渡すつもりだった。喜ぶ顔が見たくて、寝る間も惜しんでずっと作っていた。
紙袋の中には手作りのマフラーが入っている。手作りは重い、なんて言わせないように極力柔らかく編んだものだ。最近寒くてまいっちまうよな。ポツリと漏らされた一言がきっかけに、編むことを決めた。


「……いいのか?」


確かめるような土方さんの質問。俺はうつむきながら一つ頷く。
店の前で見たのは、女の子に囲まれた金時だった。幸せそうに笑ってチョコレートやらケーキやらを頬張り、ありがとうと口づけをする。……自分の贈り物がいかに場違いなのかを思い知らされた。
甘味なら金時は無条件に喜ぶだろう。マフラーなんか喜んでもらえるか分からないようなものではなく、せっかくの誕生日なんだからもらって確実に嬉しいものの方がいいに決まってる。
自分は金時と付き合ってるのにそんなことすら分からないなんて、恋人失格だ。きっと呆れられてしまう。
何か、今からでもいいから別の贈り物のを探さなければ。


「……じゃあ、俺はこれで、」

「なーにやってんのかな、さがるくん」


早くこの場から去ってしまおうと挨拶をすれば、突然後ろから肩を掴まれる。後ろを振り向けば、そこには女の子に囲まれているはずの金時がいた。


「旦那、」

「土方に何渡してたの?」

「それは…」


いつもとは違う、冷たい瞳で見下ろされて情けなく震える。ああ、どうして自分はこうなんだ。他の女の子みたいに優しい視線を向けられることなく、せっかくのめでたい日なのに怒らせてしまう。
今日くらいは、幸せに笑っていてほしいのに。
例え、横に自分がいなくても。


「なあ、土方。こいつに何もらったの?」

「そいつァ知らねえなぁ。何せこいつは差出人不明で、いらねーなら捨てちまって良いみたいだからよ」

「はあ?」

「言われなくてもくれてやる。元々てめえ宛のもんだ」

「ちょっ、土方さん!!」


土方が投げた紙袋を金時がキャッチする。それだけは阻止したかったのにあまりにも見事な動作で止める隙もなかった。困ったように土方を見れば、彼はめんどくさそうな表情で煙草を携帯灰皿に押し付ける。


「俺ァ渡したからな」


そう言ってからまるで逃げるようにその場をあとにする。ひどい。あとでマヨネーズタバスコ入れてやる。


「マフラーじゃん」


そうこうしてる間に紙袋の中身を見られてしまったらしい。金時の表情を窺うことなく紙袋を引ったくるようにして自分の腕の中に納める。


「こ、これは、違います!!もっと、旦那が喜ぶようなものを…」

「チョコレートとか?それで俺のご機嫌を取ろうって?」

「ちがっ…そういうわけじゃ」


ギュッと目を瞑って下を向く。これじゃあ、せっかくのお祝いが台無しだ。金時はきっと俺のことをご機嫌取りだと思って嫌いになってしまう。
そうじゃない。自分はただ、喜んでほしいだけなんだ。


「…山崎、」


呼ばれた名前にビクリと肩を震わす。「こっちを見て」と甘く言われておそるおそる相手を見上げる。


「あのな、落ち着いて考えてみろよ。お前、俺がマフラーいらねえなんざ一言も言ってねーだろうが」

「だって、旦那、スゴい怒って、」

「そりゃ、自分の誕生日に大好きな子が他の男にプレゼントしてんだぜ?怒るに決まってんだろ」


さっきとは違う優しい目が俺を見つめていて、こころのこわばりが溶けるのが分かる。緊張していたのか、と何処かで冷静に考えて、それを認めたらするすると言葉が出てきた。


「女の子に祝ってもらった方が、嬉しいかと思った」

「オメーが一番に決まってんだろ」

「マフラー編むのスゴい大変でした」

「見てたから知ってるよ。よく頑張ったな」



「……お誕生日、おめでとうございます」



「ありがとう」


ようやく言いたいことが言えてホッとする。「家に帰ってお祝いの続きして」と耳元で囁かれ、耳まで真っ赤になってしまった。

アホな俺の恋人に良いように操られている俺はもっとアホだ。
けど、好きな人の横にいられるなら、それでもいいと思った。



「愛してますよ、旦那」

「それもプレゼント?」

「そうですね、今日だけです」

「ちょっ…そりゃねーわ…」