「大好き」
「嫌い」
「いなくならないで」
「でっていう」
「宇宙一愛してるよ」
「よくそんなことが言えますね」
旦那とグダグタ話しながら、アイスを口に含む。背中合わせに座ったところからはウザいほどの熱が発生している。 万事屋だって狭くはないんだから離れれば良いと言うのは分かっているのだが、昼間に日が照らないのは今いる場所のみ。ただでさえ灼熱地獄に扇風機しかないという状況なんだから勘弁してほしい。
「ねえ、チューしていい?」
「いいわけないでしょ」
「しょーがねえだろ、してえんだし」
「死ねクソ天パ」
汗が滝のように流れる。従業員は暑いからと言って逃げ出した。この場には二人のみ。 無意味な生殖行為も、暑くてやる気が出ない。せめて、日が沈んでからだ。
「パンツほしい」
「いい加減にして」
「手ェ繋ぎてェ」
「えー…暑いからいやっすよ」
さっきから自分の欲望をベラベラと並べまくる旦那の声に覇気はない。 この暑さのせいか、はたまた俺が断り続けるせいか。 遠くで子どもの声がする。それから、蝉の鳴き声も。
「よっしゃ、手ェ繋ぐぞ山崎」
「キモいです旦那」
「なんてこと言ってんのォォォ!!!?」
グダグダしながらも手を繋ぐ。汗ばんでて熱い、侍の手。
「…落ちついて下さい旦那」
「これが落ちついてられっか!!!キモいってただの悪口……」
「旦那の負けですね」
しれっと言って立ち上がる。ちょうど休憩が終わる時間だ。
「アイス、ごちそうさまでしたー」 「え、マジで帰るの?」 「はい。俺がしりとりで負けるまでの約束でしたよね」
勝ちましたけど、とドヤ顔言えば、旦那は悔しそうな顔をされた。 その顔をしっかり心に刻みながら万事屋をあとにした。 真夏の、一コマ。
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