ラジオ。


※現代パロ。





「はい、本日も始まりました、Silver SOUL。やっぱしキャッチコピー考えようかね。どう思う?…え、いらねえ?じゃあいいか」

原稿に目を通しながらつらつらと喋っていく。好きにしていい、と言われてはいるもののやはり大体の流れは決まってるものだ。
BGMが変わる。アップテンポから、緩やかなものに。


「この時間帯っつったら、みんなお祭りに興じてんのか?俺も若い頃は行ったなあ…。最近はラジオの方で忙しいんで、サッパリだけど。やっぱりお祭りって言ったら浴衣?あ、浴衣着た女の子か。…だいたい今日のテーマ分かった?」


クイズを出すように喋る。8時から2時間、焦ることはない。のんびりと、リスナーを考えながら。
―――……俺の一番のリスナーを想いながら。


「夏と言えば祭り!祭りと言やあ浴衣着た女の子!異性と発生するイベントは?もちろん、恋でしょう。ということで、本日のテーマは夏の恋!みなさん、じゃんじゃん送ってきて下さいね〜。本日も20時から2時間お付き合い下さい、DJは銀時でお送りしまーす」


自己紹介を終え、決まった番組紹介が流れる。そのあとはCMだ。
夏の恋。自分とて、経験してきた。忘れられない、大切な恋も。

流行りの曲が流れ、蝉の鳴き声が聞こえる。作りものであるが、恋を思い出すにはちょうど良かった。










俺には日課がある。
毎日8時から、ラジオを聞くこと。


『では、最初のお便り、……と思ったけど、たりィな。いやー、最近暑くってやる気出ねーんだよ』

「アンタの場合はいつもじゃないですか」

『しかもさ、今頃リスナーは俺のラジオそっちのけでお祭りだろ?俺も行かせろー』

「ちゃんと仕事しろ、ダメ男」


仕事片手間にラジオにツッコミを入れる。パーソナリティは俺の恋人。小さな地方のラジオ番組。けど、地元じゃ人気の番組だ。
DJはよくテレビや雑誌に出ていたりもして、所謂売れっ子だ。それらをチェックしたことはないが。
初期の頃はちゃんと見ていたが、すぐにやめた。本当にイキイキした姿を見せているのはラジオだけだから。


『つーか、だりいなオイ。受験生とかも大変だよな。えー……お祭りに行ってないのは銀時さんだけじゃありませんよ!!私も受験勉強で行けてません。ラジオネーム・銀ちゃん大好きさん。そうだよなー、勉強忙しいよなー。俺もラジオ忙しいよ』


ただただユルいだけのラジオは、ガチガチに固まった肩をほんの少しだけほぐしてくれる。今どき流行りの脱力系とかいうやつだ。


『では、最初にお送りするのはこの曲。―――で、ラブソング』


曲紹介と共にラジオから曲が流れてくる。俺が大好きな歌。
あの人との思い出の歌。
手を止めて、ラジオを見る。あの人が初めてくれた贈り物のそれ。テープしか聞けない代物だが、ラジオを聞くためだけに愛用し続けている。

この、曲は。


『俺の夏の恋の話な。もう10年も前、高校生だったときに、祭りで出会った運命の人。お互い一目惚れ。スゲーのよ、すれ違った瞬間にきたね。こう…ビビッと。で、振り返ったら相手もこっち見てて。アイツ、浴衣でさあ、一人で祭りに来てたわけ』


曲が終わって、DJが喋り始めた。
目を瞑ればまだ鮮明に思い出される。あの時のこと。

友達はいなくて、それでも祭りに行きたくて。濃紺の浴衣を着て、フラフラ歩いていたら、出会った。
銀髪の男。見ただけで胸がしめつけられるような気持ちにさせられた。
名前も知らない、初めて会った人だったけど、運命を感じた。
……性別すらも乗り越えて。


『お茶しない?みてーなベタな台詞で誘ってよー…。まあ、俺の家でお茶したわけですが。その時にラジオから流れた曲が、今流したやつ。俺みたいに恋を思い出したやつがいたら幸い』


いますよ、少なくとも、一人はここに。
ケータイを開いてメール画面を立ち上げる。今、無性に伝えたくて。


『ちなみに、その子は今も俺の恋人でっす。良いだろー羨ましいだろー。……って、俺の話ばっかすんなって話だよな。では、まずラジオネーム』

「つーか、恋人じゃなくて嫁だろ」


普段なら絶対に言ってやんない訂正をボソリと呟いて、メールに文字を売っていく。
帰ってからの反応が楽しみだ。送信ボタンを押して、一人ごちる。


『運命って本当にあるんですね。愛してますよ』


ラジオの声は、愛しい貴方の。