▼ カリスマ髪結い師と-02-
「やっぱり蓮夜くんの髪は艶があって綺麗だね。」
「ふふ、ありがとう。」
軽快な音をたててタカ丸くんが俺の髪を切っていく。現代の時のようにとはいかないけれど、こまめに手入れはしていたからね。でも、やはり改めて言われると嬉しいものだ。
『そう言えばタカ丸くん、もう学園には慣れた?』
タカ丸くんは俺の後ろにいるので見えないのだけれど、少し視線を上に向けて尋ねてみた。
「うん、勉強は難しいけどみんなのお陰で慣れたし毎日が楽しいよ。」
心底嬉しそうに話す彼に俺は良かったと笑った。これなら大丈そうかな?だって、今まで髪結いとしてしか生きてこなかったのに急に忍者になるなんて簡単なことじゃないからね。でもこの学園でなら心配はいらなさそうだ。
「でも、蓮夜くんは凄いよね。」
『え?』
「僕や他の6年生とも同い年なのに、プロで色々と経験して今に至ってる。本当に尊敬する。」
何を言うのかと思えば俺が全然予想してなかったことで少し反応が遅れてしまう。
「5.6年生達にね、聞いたの。勝手にごめんね。」
俺の過去を聞いてたのは別段驚かない。俺だって事前にタカ丸くんの過去を学園長から聞いていたのだからタカ丸くんが誰かから俺の過去を聞いていることも普通にあり得る。でも彼自身からその話を振ってきたことに吃驚したのだ。そんなの気にしなくてもいいのにね。優しくそう言えばタカ丸くん少し驚いたような顔をしてから微笑む。
「蓮夜くんは本当に優しいね。僕が思っていたよりずっと優しくて、ずっと暖かい。」
『………………え、ええ?そ、そんなことは無い。うん、無いよ///』
不意にそんなことを言われたので反応が遅れたが、タカ丸くんの言葉を理解した瞬間顔が真っ赤になった。何を言い出すのかと思いきや。タカ丸くんからは俺の真っ赤になった顔は見えないけれど動揺しているのは伝わってると思う。恥ずかしい。
『それにね俺は優しくないよ。優しいって言うのは、タカ丸くんやこの学園の人のことを言うんだよ。』
謙遜とかそんなものではなくて、それが紛れもない事実なんだ。
「蓮夜くんも学園の人間だよ?」
『そうだね、でもやっぱり違うと思うんだ。』
この世界での両親を亡くしても、竹成様や組頭を亡くしても、まだ今を生き、こんなにも幸せに浸っている俺はやっぱり残酷な冷酷な奴だと思うんだ。
「……違わないよ。蓮夜くんが学園に来たとき泣いていたって聞いた。主を思って泣いたって。そんな人が優しくないわけない。学園のみんなだってそう思ってるよ。」
髪を切る手を止めてタカ丸くんは至極真面目に言う。あまりにも真剣なその瞳に俺は何も言えなくなった。彼は、否、彼らは俺のことをそんな風に思ってくれてたんだと改めて知った。
『そう、かな?そうだと嬉しいなあ…。』
自分が優しいなんて思わないけどそう思ってくれている人がいるなら、素直に嬉しいとそう思った。
「あ、ごめんね。偉そうに言って。」
『ううん、こっちこそごめん。ありがとう。』
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