雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 長期忍務からただいま-02-


まだ話し続ける小松田さんの口を塞ぎ、俺は学園長の庵へ向かうためにこれから授業の2年生達と別れる。

歩いていれば前の方から、朱華の遊びにいつも付き合ってくれているヘムヘムが歩いてきた。
ヘムヘム、と俺が声をかければこちらに気づいたらしく勢いよく走ってくる。そしてその勢いのまま胸に飛び込んできた。

「ヘムヘム〜!!」
『ただいまあ、ヘムヘム。』

俺を見てから周りを見渡すヘムヘム。
そして首をかしげた。

「ヘムヘム?」
『ああ!朱華ならまだ学園の外で狩りをしてるよ。』

忍務に連れていったのは良かったけど、相手が予想していたよりも弱すぎて朱華が活躍することはなかったからね。その分、動き足りなくてむしゃくしゃしてたみたいだ。

「ヘッムヘム〜!」
『そうだな、学園長のところまで一緒にいこうか。』

2人仲良く手を繋いで歩く。あー、本当にヘムヘム可愛い。この学園の子達は人も動物も何でこんなに癒し属性なんだろうか。庵の前まで来れば、ヘムヘムは残念なことに掃除に戻っていった。

『学園長先生、秋月蓮夜です。』
「入りなさい。」

学園長の言葉に、俺は、すっと障子を開き部屋の中に入る。そして学園長の向かいに片膝をついて頭を下げた。

『只今戻りました。』
「ご苦労じゃた。楽にしなさい。」
『はい。』

正座をしてから学園長に向かい合い忍務の報告を淡々としていく。

「そうかそうか、いやはや遠くまで本当にご苦労じゃったな。」

俺の報告を聞いて安心したように笑った学園長に俺も笑い返す。本当に、何もなくて良かったです。戦争となれば、また面倒なことになりますから。

『そう言えば、先程小松田さんから4年生に編入生が来たと聞いたのですが。』
「………ああ、そうじゃった!」

しばらくたわいもない話をしていたが、ふと先程の会話を思い出して学園長に問うてみた。 ぽんっと手を打っているこの姿を見ると、俺に話すと言うことをすっかり忘れていたようだ。

「編入生は"斉藤タカ丸"と言ってな、タカ丸のお祖父さんの斉藤幸丸殿がとある城の忍者隊の穴丑だったのだ。しかし……」

ふむふむ。何も話さずに亡くなってしまったから何処の忍者隊に所属していたかも解らずに今に至ると。そしていろいろ要約するが、タカ丸くんはお父上の「お前は忍者にはなれない。すぐに帰ってこい。」を「忍者に…なれ…すぐに…」と聞き間違えて入学したと言う。なんとも面白い理由だ。

「忍術は今まで習ったことがないから蓮夜達と同い年じゃが4年生になったと言うことじゃ!」
『そうだったのですか。』

すんなり入学を許可した学園長はやっぱり心が広いと言うかやさしいと言うか。もし、その何処の城か解らない忍者隊と争うことになった時はどうするのだろう。斉藤家のことをその忍者隊が放っておくとは思わないけれど。
俺のときと言い、タカ丸くんのことと言い、やはり学園長は人が良すぎる。

『ふふ、学園長はやっぱりあの方と人柄が似ておられる。』
「竹成殿か?」
『ええ。』

学園長だけではなくて、この学園の皆は優しくて暖かい。だから帰ってきて安心するのだ。あの城にいた頃を思い出すから。

『それでは失礼しますね。』
「ーーー蓮夜。」

頭を下げて障子を開けて出ようとした時、学園長に呼ばれて振り向いた。すると、学園長が子を見るような優しい目で俺を見た。

「おかえり。よく帰ったの。」
『ただいまです。学園長先生。』

長期忍務で疲れた心を癒してくれるのは、この学園の全てでした。



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