雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 売れっ子と無自覚-05-


謎解きが終わると同時にぱちぱちと何処からか拍手が起こる。それはすぐとなりに座っていた男性からのものだった。

「たまたま隣に座っていたらお話が聞こえてきましたが、いやはやお見事な推理でした。」

彼の見た目はすらっとした長身で黒いサングラスをつけていた。えっと…、誰ですか。いきなり声をかけられ俺は吃驚だ。

「ああ、僕は名探偵の夢水清志郎左右衛門と言います。」

ん、夢水清志郎左右衛門?どこかで聞いたことのある名前を口にした長身の彼はにっこり笑った。
そんな中、首を傾げた利吉さんは疑問を口にした。

「名探偵とはなんです?」
「great detectiveです。」
「ぐれーと、でぃ……?」

真顔で答える彼にますます利吉さんは首を傾げる。って言うか英語に苦戦する利吉さんが可愛すぎます。反則です。
しかし、まさか彼が英語で答えるとは思わなかったが。そうか、まだここには"探偵"と言う職はないのか。

「名探偵とはどういう職なのですか?」
「みんなが幸せになるように事件を解決することが名探偵の仕事です。」

そう言いながらサングラスの奥で彼は優しく微笑む。その瞳に俺は、はっと息を飲んだ。この戦乱の世でこんなにも澄んだ目をする人がいるのか、と。
俺は何故かその目に全てを見透かされそうで思わず目を逸らしてしまう。優しすぎて恐かったのだ。
利吉さんも同じだったのか少し困ったように目を伏せていた。その時、

「「「教授〜っ!」」」

同じ顔をした幼い女の子達が店のなかに入ってくる。そっくりな顔の彼女達を見ていると雷蔵と三郎を思い出す。

「教授何してるの!?」
「今日は私たちと約束してたのにー!」
「ほら、行こーよ。」

彼女達の言葉に夢水清志郎左右衛門は不思議そうに首を傾げた。

「え、約束なんてしてないよ?」
「「「してたよ!!」」」

間髪入れずに三つ子が声を揃えて怒鳴る。
教授はすぐ忘れるんだから、とぷりぷり怒りながらも三つ子は楽しそうだった。始終首を傾げながらも夢水清志郎左右衛門は彼女達について店を出ようとした。

「そうだ。」

不意に振り向いた彼は俺の方を見る。

「最後に1つだけ。謎解きをするときは"さてーーー"と言って始めるといいですよ。」

失礼しますと頭を下げて出ていった彼らに、俺らはぽかんとする他なかった。
暫く呆然としていた俺達だったが、2人で見つめ合い途端にぷっと吹き出した。

『なんだか嵐みたいな人でしたね。』
「確かに。」

しかし夢水清志郎左右衛門か。
夢水清志郎左右衛門、夢水清志郎…。あ、といきなり大きな声を出した俺に、利吉さんはびくっと肩を揺らした。

「どうかしました?」
『あ、いえ。すいません……。』

やっとわかった。
彼の名前を聞いたことがある理由が。彼は俺が"あたし"だった頃、友達に薦められて読んだ【夢水清志郎事件ノート】の主人公だったのか。なるほど、すっきりした。しかし【忍たま】の世界で逢うなんて。なんて偶然。
偶然と言えば利吉さんと駿河国で逢ったことも凄い事だけど。

『そう言えばまだ自己紹介していませんでしたよね。私は秋月蓮夜です。お名前お伺いしても宜しいですか?』
「すっかり忘れていました。私は山田利吉です。」

本当に、遅すぎる自己紹介である。接触してからどれ程の時間が過ぎていることやら。
そうだ、いつボロが出るかわからないのなら今ここで聞いてしまえばいいじゃないか?三郎にも利吉さんの顔を見せてもらっていることだし。

『あの、もしかして利吉さんは忍術学園の山田先生の息子さんですか?』
「そう言う蓮夜さんこそ、忍術学園の新しい事務員さんですよね?」

想定外の答えに目をぱちくりと瞬かせていると彼はふふっと笑った。ああ、もう。その顔も反則ですよ。見惚れてしまいますから。

「5年生の子達からあなたのことを聞いていたんです。鉢屋くんにも顔を見せてもらいましたし。」
『ああ、なるほど5年生か。』

俺はぽんっと手を打つ。しかし5年生か。話すなら1年は組の子達だと思ったが。

「蓮夜さんこそ何故?」
『ふふ、私は山田先生に話を聞いてましたし利吉さんと同じように鉢屋三郎に顔を見せてもらいましたから。』

俺達は初めからお互い正体が分かっていたと言うことか。それがとても可笑しくて2人で笑い合った。



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