▼ 売れっ子と無自覚-04-
「すみません。少しお話よろしいですか?」
利吉さんがちりめん問屋から出てきた男に近づき声をかける。すると男は声をかけられたことにひどく驚き焦った様子を見せた。
「あの……、」
男を不審に思った利吉さんはもう一度声をかけようと手を伸ばす。しかしその瞬間、男が小刀を取りだし利吉さんに斬りかかろうとした。
あ、あの男終わったな。知らないとは言えあの利吉さんに刀を向けるなんて。馬鹿だなあ。御愁傷様と心の中で呟いたと同時に男は利吉さんによって地面に沈められていた。お見事。
「これはどういう事です?」
彼らに近づいていけば、利吉さんがこちらを見て問うた。その問いに俺はにこりと笑って返す。
『まあ、説明は後程。ご協力感謝します。』
ちりめん問屋から出てきた男からは大量の金銭が出てき、騒ぎに乗じて喧嘩をしていた2人が逃げようとしたのを止める。
簡単に言うとこの3人は盗人だったと言うことだ。
しかし、利吉さんの体術は素晴らしかった。もう見惚れるくらい素早くて隙がなくて華麗だった。俺もいつかあんな風になれるだろうか。……いや、無理な気がする。
「ありがとうございました。」
俺と利吉さんの前で頭を下げお礼がしたいと言うちりめん問屋の人達に俺達は「大した事はしてませんから。」と言い場所を蕎麦屋に変え2人で腰かけた。何故かって?これ以上同じ場所にいて目立つわけにはいかないからね。
『改めまして、ご協力感謝します。私1人では盗人たちを捕まえることは出来なかったかもしれません。』
目の前に座る利吉さんに頭を下げれば彼は少し苦笑いをこぼした。
「それにしても何故彼らが盗人だとわかったのです?」
『そうだ、まだ話してませんでしたね。貴方は彼らの喧嘩を見て2つ違和感を感じませんでしたか?』
「いささか引っ掛かってはいましたが、それが何なのかは……。」
えーっと、こんな俺が優秀な利吉さんに偉そうに話してもいいのだろうか。なんて感じながらも口を開く。
『まず1つは言葉です。』
「ああ!?ぶつかっといてなんやその言いぐさは!おとなしゅう謝らんかい!!」
「何ゆうてんねん!そっちこそぶらぶら歩いとるんやないで!!」
忍術学園の近辺なら全く可笑しくはない。しかし、ここは駿河国だ。
『2人とも上方の言葉を話していました。しかしここは遠く離れた駿河国です。良くできた偶然ですよね。』
利吉さんもこれには気づいていたようで、頷きながら聞いている。
『もう1つは取っ組み合い。』
そう言えば彼は頭の奥底にある記憶から先程の光景を引っ張りだして来たようで、少ししてからぽんっと手を打った。
「なるほどそう言うことか。」
『ええ、1人は町人で1人は浪人。浪人の方は刀を持っていました。刀で脅せば有利になるのにそれをしなかった。』
「ここは商家が多く並んでいる。わざと喧嘩をして注目を集めたんだね。もう1人がその隙に盗みに入るために。」
謎が溶けた利吉さんは俺の言葉を引き継ぎ、そうだよねと同意を求めた。
『ええ、この辺りで1番お金がありそうなのはあのちりめん問屋ですしね。』
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