雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 売れっ子と無自覚-02-


おばちゃんお薦めの最中を食べ終え、そろそろ店を出ようとしたとき外から何やら喧嘩らしき声が聞こえてきた。
店の中にいた客達はなんだなんだと席を立ちわらわらと外の様子を見に行く。俺とおばちゃんも同じようにつづけば外では2人の男が取っ組み合いの喧嘩を繰り広げていた。

おおぉぉ。元気だねぇ。
喧嘩できだけの体力があるとは若いと言うことは良いもんだ。のほほんとそんなことを思った俺は果たして年寄りなのか。まあ、そんなことはどうでもいいとして俺は2人の男の喧嘩を見て違和感を覚えた。

「ああ!?ぶつかっといてなんやその言いぐさは!おとなしゅう謝らんかい!!」
「何ゆうてんねん!そっちこそぶらぶら歩いとるんやないで!!」

はて、こんな偶然はあるのだろうか。
明らかに不自然だと一人首を傾げた。辺りをぐるっと見回せば一件の店が俺の目に留まる。ああ、なるほど。そういうことか。事の真相に気づきふっと口角をあげて笑った。残念だけど阻止させてもらおうかな。そう考えた俺はその場を動こうとした。だが、

「あの、すいません。」

タイミング良く俺の肩に誰かの手が置かれた。置かれた手とかけられた声に俺が振り向けば整った顔の青年がそこに立って俺をじっと見つめている。

「何処に行くんです?」

適当にあしらってその場を離れようとしていたのに、俺は青年の姿を見て固まってしまった。嘘だあ。何でこんなところにいるんですか。
ーーー利吉さん。

彼を見つめたまま何も言わない俺に利吉さんは眉を少し寄せる。

「あの…、」
『っあ、あー。その…、』

停止していた思考がはっと戻った。
何て言えば彼は俺を離してくれるだろうか。振り切って行けば怪しまれるだろうし、彼が何故ここにいるのかもわからない。もし何かの忍務でここにいるなら?下手な動きをしてこちらが忍だと感ずかれれば俺は後々攻撃を受けるかも知れない。
なにか最善の策は無いだろうかと悩むがそんな時間もあまりない。早くしなければあいつらに逃げられてしまうだろうから。

『……うーん、あのですね。一つ頼まれごとを引き受けてくれませんか?』

悩んだ結果がこれ。俺が動くよりも利吉さんに動いてもらう。下手にこちらの身体能力を見せないと言う、かなり安直な考え。だってそれしか思い付かなかったんだよ。しょうがない。

『あそこにちりめん問屋があるんですが、あそこから誰かが出てきます。そしたらその人を、…………捕まえてくれませんか?』
「へっ?」

俺の言葉に利吉さんは目をぱちくりと開け驚いている。きょとんとしている彼を急かすように俺は彼の手を振り払って背を押す。

『今は説明している暇はありません。僕じゃ捕まえられないかもしれないですから。』
「な、何を言って…。」

利吉さんがこちらを向いて困惑しているが、問屋から出てきた人に気づいた俺は彼の話を遮った。

『あ、ほら出てきました。とりあえずお願いします。』

渋々と言う感じで歩きだした利吉さんに付け足すように声をかけた。

『怪我はしないでくださいねー。』

まあ怪我をするなんてあり得ないけれど建前って大事だから。



prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -