▼ 家族の絆-01-
『………。』
「「「あ、蓮夜さんこんにちは!」」」
うおおおい。何て突っ込めばいいんだ、これは。目の前に広がる光景に俺は開いた口がふさがらない。なんなの、これは。
『えーーーっと、手伝いましょうか?』
1年は組の教室の戸を開け、しばらく固まった俺がさんざん悩んだ結果に最初に発した言葉がこれ。
それは、大声で泣く赤ん坊約15人に囲まれながらひたすら世話をする土井先生に向けたものだ。
は組の子達は5人の赤ん坊を相手に遊んでる。計20人。うん、言われなくても誰が原因かは分かるけどさ。どれだけ預かってきたんだよ。馬鹿か馬鹿なのか。
「………頼む。」
『ええ、勿論ですよ。』
申し訳なさそうに懇願した土井先生に俺は少し同情する。周りに振り回される俺たち苦労人はいつでも大変なのだ。それに誰だってこの状況を見れば救いの手を差しのべたくなるさ。
おっとその前に。つかつかとは組の子達の輪に近寄って1人の頭に拳骨を落とした。
「〜〜ってえ!」
『もうちょっと考えて預かってこい。わかったか?きり丸。』
そう。原因は言わずもがな、きり丸だ。きり丸はたんこぶのできた頭を押さえ涙目で俺を見上げた。
「ううっ、だって……。賃金が良かったんですよお…。」
『だからってなあ。土井先生の神経性胃炎をまた悪化させる気か?』
ほらほら、土井先生がお腹押さえてる。また穴が空くじゃないか。それも特大の。すると、きり丸はばつが悪そうな顔をして謝った。
「うっ…、ご、ごめんなさぁい。」
あらら?やけに素直だな。普段のきり丸はもっと頑固だったような気がするけど。まあ、素直なことは良いことだ。
『俺じゃなくて先生に謝ってきな。』
「はーい、土井先生すいませんでしたあ!」
うん、本当吃驚するぐらい素直だな。たたたっときり丸は土井先生に駆け寄って頭を下げた。その光景にあんぐりと口を開けて驚く土井先生と、は組の子達はぴしっと固まったように動かない。
「これからは、土井先生が神経性胃炎にならない程度のアルバイトをいっぱい受けてきます。だからタダで手伝ってくださいね?」
ずでんと土井先生とよい子達がずっこけたのと、俺の拳骨がきり丸に落ちたのは同時だった。懲りてないな、こりゃ。
prev / next