▼ さようなら-03-
そっと竹成様を床に降ろし、渡された簪を大切に懐にしまう。そろそろ行かなければ。また、敵がくる。
『組頭………。俺、行きますね』
呟くと同時に後ろに現れた気配。振り向けば組頭の姿がそこにあった。
「竹成様は逝ってしまわれたのか?」
『はい。笑って逝かれました。』
「そうか…。」
そう呟いた組頭の顔が泣いているように見えた。でも勘違いかと思うほど一瞬のことで、瞬きをした後にはいつもの飄々とした表情に戻っていた。
「"蓮夜がこの城から逃げ切る"。これが我らササガタケ忍軍の最後の忍務だ。………ったく、……この俺が援護してやるんだ。死んだら承知しねーぞ?」
『………はい。ありがとうございます。』
にやり、と笑った組頭はいつもと変わらない。ただ、腹から流れる血の量は尋常じゃない。そんな組頭の傷を見て俺は顔を歪めた。
「ハハッ、そんな顔するな。」
そんな俺を見た組頭はくしゃっと俺の頭を頭巾ごしに撫でた。その手の暖かさは本物で、彼が生きていることを証明してる。でも、この暖かさを感じるのはこれできっと最後。竹成様や城の者達のようにこの手も冷たくなっていくのだろう。
「風前の灯火だがちょっとぐらい役に立つだろ?」
ああ、本当に…………。
竹成様も組頭も、人の事ばかり。
少しは、
『自分に我が儘になって下さい。』
俺は居心地の良いこの場所で、家族のように接してくれたあなた達の側で、もっと一緒に過ごしたかったです。
ーーーさようなら
俺は後悔と哀しみを胸に押し込め、ササガタケ城を背に走り出した。
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