▼ 一時の休息-02-
美味しいなー、と饅頭を頬張りながらずずっとお茶をすする。小松田さんも隣で美味しそうに饅頭を頬張っている。はあ、幸せ。
「……で?」
『ん?』
今まで視線をこちらに向けながらも、薬研で薬草を磨り潰す手を緩めない伊作だったが、とうとう口を開いた。
「蓮夜と小松田さんは何でここでお茶してるの?」
『何でって言われてもなぁ……。』
「お茶するならなんとなくここかなぁっと思って!! 伊作くんも一緒にどう?」
俺の言葉を引き継いだ小松田さんは、にこにこと満面の笑みで伊作に饅頭を差し出した。誘惑が一つ。
「一応ここ保健室なんだけど……。」
『今は伊作しかいないから良いだろ?』
俺はもう1つ湯呑みを用意しお茶を注ぎ入れ、小松田さんのように伊作の前に差し出した。ほらほら、誘惑が二つ目だ。
「…まあ良いけどね。」
そう言いながら伊作は俺達から饅頭とお茶を受け取った。渋々受け取ったようにも見えるが、感情が隠しきれてない。凄く嬉しそうだ。伊作ったら分かりやすいな。
『やっぱり食べたかったんだなぁ。』
「!……何でわかったのさ。」
そりゃまあ、あんなに物欲しそうな顔をして俺達を見つめてたらわかるよ。忍者ならもうちょっとポーカーフェイスに気を付けなきゃねえ。
『ほらほら、そんなこといいから食べなよ。お茶が冷めるぞ。』
俺がそう促すと伊作はいただきます、と手を合わせてから饅頭を幸せそうな顔をして食べだした。その顔を見た俺の頬が緩む。
「なんで笑ってるの?」
『いや、伊作があまりにも幸せそうな顔をするからさ。』
頬が緩みっぱなしの俺に、俺の発言に照れる伊作。そして、その様子を見て優しく笑う小松田さん。やっぱり幸せ。
だが、こんな至福の時間は長くは続かない。何故かって?ここにはへっぽこ事務員と不運委員長がいるのだから。それは必然なのだ。
のほほんとした保健室の空気に終止符を打ったのは怒鳴り声と保健室の戸を開ける音だった。
「小松田くん!!」
そこに立っていたのは学園長。珍しく怒っている学園長の背後はメラメラと炎が上がっているように見える。
「学園長先生、どーしたんですかぁ?」
「あ゛ーー!やっぱり儂の饅頭!!」
学園長は小松田さんの手元にある食べ差しの饅頭を指差し叫ぶ。……ん? 儂の饅頭?もしかしてこれって、もしかしなくてもそうなのか。
『……小松田さん、これどこから持ってきたんですか?』
「え?学園長先生の庵の前に置いてあったのを貰ってきたんだよ?」
おい、何で食べる前に確認しなかったんだ俺。伊作なんて吃驚しすぎて固まっちゃってるじゃないか。
「期間限定で販売してた饅頭を、わざわざ1年い組の子におつかいに行かせたのに……。」
ぐすっと涙を流す学園長は次の瞬間俺達3人に拳骨を落とした。
『「「いてっ、」」』
「罰として、今すぐ3人で饅頭を買ってくるんじゃ!」
俺達が保健室でお茶をしたばっかりに巻き込まれた伊作は、流石不運委員長だと言える。でも饅頭を食べた伊作も悪いと言うことで、3人仲良く街に饅頭を買いに行きましたとさ。
結局、降ってきたのは槍じゃなく拳骨。そしてやっぱり小松田さんはへっぽこだった。
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