▼ 一時の休息-01-
「蓮夜く〜ん!」
俺に手を振りながら、ドタドタと正面の廊下を走ってくるのは同じ事務員の彼。ああ、忍者目指すならもっと足音にも気をつけなくちゃ。
全然忍べてないよ、小松田さん。
『どうしたんですか?小松田さん。』
「あのね、美味しいお茶菓子見つけたから一緒にどうかなって思って!」
にこにこと微笑む彼には本当に癒される。マイナスイオンでも出てるんじゃないかと思うほどに。あー、でもイライラ製造機でもあるからなあ。結局のところプラスマイナス0になるんだよな小松田さんは。
お茶のお誘いに『是非』と軽く返事をしてからはたと気づいた。
『小松田さん仕事はどうしたんですか?』
確か、今日は書類整理とかが結構あって大変だったはず。俺の分の仕事はもう終わらしたからいいけれど小松田さんは?
「えっ、もう終わったよ?」
……も う 終 わ っ た ?
えっ、まだお昼過ぎたばかりだよ?なのに終わった?普段の小松田さんなら、仕事が倍に膨らんで膨らんで膨らんで。吉野先生か俺が手伝わなくちゃ終わりが見えないはずなのに、もう終わった?
『……本当ですか?』
「やだなぁ、蓮夜くん。嘘なんてつかないよ。」
にこにこ笑って答える彼は嘘をついてるように見えない。まあ、嘘をつくような人でもないけれど。
『……入門表はいいんですか?』
「さっきね、吉野先生が代わってくれたんだあ!」
『ならいいです。お茶にしましょう。』
まだ信じられないけど、こんなに疑ってたら小松田さんに失礼だ。きっと、小松田さんもやるときはやる人なんだって。ああでも。
槍でも降るんじゃないだろか。
prev / next