▼ さようなら-02-
城に着いた時すでに中は酷い有様だった。
廊下や部屋にはいくつもの屍が転がっていて、その全てが城の人間。お互い争った形跡があって、どれが味方だったか敵だったかなんてわからない。
ただ竹成様が"子供"だと言うことで"女"だと言うことだけで、何故ここまでするのか。俺には理解できないな。
屍を避け、俺はある部屋の前で立ち止まると気配を絶ち中へ入っていく。
『…〜っ!!』
目の前に広がる光景に息を飲んだ。竹成様の自室は血の海と数人の側近の屍。そしてその中に血だらけで横たわる少年。否、少女がいた。
『竹成様!!』
そっと抱き起こせば、ゆっくりと開かれる瞳。
ああ、心臓がどくどくと煩い。こんなに取り乱したのはいつぶりだろうか。
「…蓮夜、か……?」
今にも消えそうな声で竹成様が俺の名を呼ぶ。くそ、この傷じゃあ助からない。
『は、い。……申し訳ございません。私が城を離れていなければ!』
「…何故、謝る。お前のせいではないさ。」
『ですが!』
すると彼女はふっと優しく、本当に優しく微笑んだ。まるで菩薩のようなそんな慈愛に満ちた笑みだった。
「私が家臣から信頼されていなかっただけのこと。 皆 悪くない。だから、……皆を許そう。……お前もだ、蓮夜。」
ああ、こんな時でも貴方はお優しい。裏切った奴らのことも、竹成様を護りきれなかった非力な俺のことも「許す」と言って下さる。
「のう、これを…」
『これは!』
竹成様が懐から出したものは、小さな花が2輪装飾された簪だった。それは、男として育てられてきた彼女が持つ唯一の女物の簪。
「この簪をお前に…。せめて、これだ けで…も、共に…っ、」
『〜!!』
ゴポリと吐血し、ヒューヒューと苦しそうに息をする竹成様の命の火は今にも消えてしまいそうだった。
「ーー蓮夜。この城から、去れ。」
『っ、何故!?私は残ります!最後までこの城と、竹成様と共に!』
「頼 む…。この城から………逃げてくれ!」
そう言って彼女は俺の手に簪をぎゅっと握らせた。簪は、竹成様自身の血で濡れて鈍く輝いていた。
何故、何故?貴方と共に居させてください。俺は貴方の股肱の臣。死ぬときも共にいさせてください。
「"主"ではなく"友人"と しての…頼み だ。逃げてくれ。
ーーー逃げて、………生きて、く…れ」
『……はい、』
本当に竹成様は卑怯だ。
最後まで"家臣"としてでなく"友人"として俺を思ってくれている人を、どうやって裏切れようか。
良かったと微笑む彼女に俺も微笑み返した。
「ありがとう」
そう呟いて竹成様は俺の腕の中で笑って
ーーー…逝った。
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