雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 変装名人-02-


「蓮夜も大変だな。」

ため息を溢した俺を見て、山田先生はぽんと肩に手をのせ軽く同情してくる。うん、今の行為でよけいに空しくなった。

『さあ、吉野先生が探してるなら俺はもう行かないといけませんね。』

そう言い踵を返そうとして俺は立ち止まる。1つ大事なことを言い忘れていた。すごく大切なこと。

『そう言えば、』
「ん?どうしたんだ、蓮夜。」
『名前、まだ聞いてませんでしたね。』

立ち止まった俺を不思議そうに見ていた山田先生だったが、俺の言葉に山田先生………、ではなく彼は少なからず吃驚したようだった。しかし、それもほんの一瞬だけですぐにいつもの山田先生の"顔"に戻っていた。

「何を言ってる?俺は山田伝蔵だ。」
『ふふ、いいえ。違いますよ。』

声も、姿も、癖も、すべて一緒。だけどちがうんだ。俺は、笑顔を崩さずにきっぱりと言いきった。彼の変装は完璧だ。一瞬俺も間違えそうになった。でもやっぱり違う。
彼は山田先生じゃない。
染み付いてしまった血と、火薬と、それに少しの化粧の匂い。それだけは真似しようがないところ。それが僅かな違和感へと繋がる。そして確信へと変わっていく。そういえば、部下に変装が得意な奴がいたな。だから気づけたのかもしれない。

あっ、そう言えば変装が凄く得意な青年が5年生 にいた気がする。……誰だっけ。誰だっけなー。
出かかっているのに、あとちょっとで思い出せない。



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