雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 新人事務員-01-


あれから数日。

今はまだ学園は長期休暇の最中らしく生徒はほぼいない。と言うより、あまり保健室からでることもなかったので学園にいる生徒で会ったことがあるのは伊作しかいない。
土井先生と山田先生以外の教員の方達と、改めて挨拶を済ませた俺は、今日から事務員として仕事をしようと事務室に向かった。

『失礼しま「う、うわぁー!」……す。』

事務室の戸を開けると同時に俺目掛けて降ってきたのは書類と思われる紙。目の前には転けている人が約1名と眉をきりりとつり上げ怒っている吉野先生がいた。

「ったく、小松田くん!!」
『あー、えっと……大丈夫ですか?』

転けている彼にさっと手を差し出せば彼は顔だけを上げて俺を見た。あ、れ?そういえば今、確か「小松田くん」って吉野先生が言ったような。
じゃあ彼が"へっぽこ事務員"の小松田さんなのか?

「あれ〜?どちらさまですかあ?」

少し気の抜けた話し方と今俺の周りに散らかっている書類を見てみると、彼がへっぽこ事務員の小松田さんで間違いないようだ。

『俺は新しく事務員になりました秋月蓮夜です。』
「へぇ〜、事務員が増えるのかあ!嬉しいな。あ、僕は事務員の小松田秀作です。」

助け起こしながら挨拶をすると、小松田さんはへらっと笑った。
うん、なんと言うか。彼の第一印象は、のんびりしてる・危機感が常に無いってところかな。まあ、きっとそこが小松田さんの良いところなのだろう。 彼の方が年上だけと何となく彼は手の掛かる弟って感じになりそうだな。

『これから宜しくお願いしますね、小松田さん。』
「うん、よろしくね蓮夜くん。」

挨拶を交わしていれば、横から吉野先生が声をかけてきた。

「ところで蓮夜くん、朝から一体どうしたんですか?」
『ああ、一応今日から仕事をしようと思ったので、改めてご挨拶に伺ったんです。』

そう言えば吉野先生が心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。これは、あれだ。逆らえない笑顔と言うやつかもしれない。

「じゃあ、挨拶はいいですから、早速仕事を頼みます。」
『あ、はい。』
「この書類は保健室にいる新野先生に、この書類は会計委員長である潮江くんに届けて下さい。」

吉野先生は俺に数枚の書類を手渡した。

『これは保健室に持って行けばいいのですか?』
「はい」
『この会計委員長に届ける書類は何処へ持っていけばいいでしょうか?』
「会計室です。」
『あ、あの……。まだあまり学園の中、把握してないのですが。』

まあ、保健室ならすぐに分かるのだが会計室となるとなあ。この広い学園、宛もなく歩くとなるとかなりの時間が必要だとおもうんだが。それに確実に迷子になると思う。

「何となく歩いてれば目的地に着きますよ。」

おい、無茶苦茶だな。
そう言いたくても、吉野先生の後ろにある黒いオーラが怖くて俺は何も言えない。言ったら駄目、絶対。

「私は小松田くんが散らかした書類の整理があるので宜しくお願いしますね。」
『……はぁい。』

笑ってるけど目が笑ってない。言うこと全てがトゲトゲしい。……黒いな。吉野先生はこんなにも黒いのか。たぶん、否、絶対逆らっちゃ駄目。
この一瞬で、普段温厚な吉野先生でも怒らせるとかなり怖いことを学んだよ。

まあ、小松田さん限定のようだが気を付けるのに越したことはない。



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