雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 中庭ではお静かに-01-


『ほらほら、みんな片付けするぞ。』

鶴の一声と言えば良いのか、俺が声をかければ今までのどんちゃん騒ぎが嘘のようにみんなが家の中を片付け始めた。
食い散らかした食器や焼き魚の串、それからくつろぐために懐から出していた大量の忍具も。いやいや、お前たち土井先生の家だからって安心しすぎでしょ。
忍具はちゃんと常に懐にしまってなさい。

粗方部屋が片付いたので布団を敷こうと押し入れの戸に手をかけたとき、きり丸が大きな声をあげた。

「え〜、今夜は皆さんにこの狭い家で寝て頂くわけですが〜、夜具などは一切ございませんので〜各自床の上でゴロ寝してくださ〜い!」

……ちょっと待て。布団が一枚も無いってどういうことだ?昨日までは俺の分も入れてきっちり三枚あったのに。まさか、

「『また売り払ったのか!?』」

俺と土井先生がハモったことに、きり丸はパチパチと拍手をして「いや〜、息ピッタリっすね!!」とニカリと笑う。確かに、最近土井先生とのシンクロ率が高くなってる気が、ってちがーう!!
長期休暇終わりになんでもかんでも売り払うの止めなさいって。

「だって新学期始まったらまた長いこと家空けるんだからいらないじゃないですか〜。カビ臭くなるし〜。」
『それもそうだけど、』
「また買い集めるの大変なんだぞ!」
『せめて一言確認してから売りなさい。』
「そうだぞ。それに売るなら明日の朝でも良かったじゃないか。」

うんうん、と土井先生の言葉に頷く。
俺達大人は雑魚寝でもいいとして、きり丸や子供達にはちゃんと布団で寝てもらいたい。

「保護者が増えたね。」
「さすがのきりちゃんもあの二人相手に口では勝てないね。」
「きり丸にはそれぐらいがいいと思うよ。」
「でも過保護だから最終二人とも許しちゃうと思う。」
「クスクス、確かに。」
「『こら、聞こえてるぞ。』」

こそこそと話すは組の子達にそう言えば「またハモった〜!」とキャラキャラ笑われた。うう、なんか恥ずかしいな。土井先生も顔を赤くしてきり丸に拳骨を落としてる。それにめげずにまだからかってるきり丸はある意味すごい。

そんな中、よいしょとお釜をもって中庭に行こうとする三治郎に喜三太が声をかけた。

「あれ、三治郎どこいくの?」
「中庭の井戸でお釜を洗おうと思って。」
『あ、三治郎。それなら俺がやるから置いといてくれて大丈夫だぞ。』
「いえ、僕がやりますよー!」

さすがにお世話になりっぱなしは駄目ですから、と中庭に行こうとする三治郎を滝夜叉丸と喜八郎が大きな声で止めた。

「待て!いま外に出るのは危険だ!!」
「中庭には出てはいけない!!!」

あまりの圧にみんな「何故?」首を傾げる。
……さては、またいらん事したんじゃないだろうな。嫌な予感しかしないぞ。
喜八郎が、理由を述べようとしたその時ミシッと裏口の扉が音を立てた。

『あ…………、』

危ない、と言う前に扉が壊れてドシャーンと土が三治郎に降り注いだ。おいおいおい、まじか。

「落とし穴を掘った時に出た土が山積みになってるから危ないよー、って言おうと思っ、………痛い!」

喜八郎の台詞をさえぎって、パシリと頭を叩く。もう、喜八郎ってば年長組でしょ。そういうことしない。絶対狙ってやってるだろ。

『ったく。』
「中庭に土砂を?それはマズイ。」
「ええ、マズすぎます。」
「敵に罠を仕掛けたことがバレてしまう!」
「近所のおばちゃん達に怒られる!!」

一瞬止まった二人の間の空気感に俺は頭を抱えた。
山野先生の言うことは最も。でも土井先生の言うことも最もなのだ。あー、明日の朝一に胃薬買ってきた方がいいだろうか。
同情しだした山野先生に、やめてあげて下さいと言いたくなる。もう本当、土井先生の心労溜まりまくりだから。

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