雲外蒼天-本編- | ナノ


▼ 狙われた斉藤親子-01-


『きり丸〜、隣のおばちゃんが煮豆くれたぞ。』

裏口からひょっこと家の中に顔を出せば、釜戸で飯を炊いていたきり丸がキランと目を輝かせた。

「まじっすか!?やり〜!」
『おかずが増えたな。』
「ししっ、今日は贅沢っすね!」

土井先生もそろそろ帰ってくるだろうか。
今日は長期休暇最後の日だからと言って、土井先生に「魚が食べたい」ときり丸がお願いをすれば、彼は快く承諾して足取り軽く買い出しに行ってくれた。俺の分まで申し訳ない。

さて、なぜ俺が土井先生の家にお世話になってるかと言うと、休暇中に「忍務がなければ私の家にきなさい」と土井先生にお誘いしてもらったからだ。
曰く、学園に居たら休まずに仕事ばっかりするだろうということらしい。別に仕事が嫌いな訳じゃないから良いんだけど、土井先生のせっかくのお誘いを断るなんて野暮だ。それに休みの間も2人と一緒にいれるなんてこんなに嬉しいことはない。

『あ、土井先生帰って来た。』

それとあと追加で2人。これは、きり丸泣くだろうな。飯時に来るなんて、て。
嬉しそうに家を出たきり丸だったが、予想通りの半泣きの声が外から聞こえて空笑いを溢した。

『きり丸泣くな泣くな。』
「そうそう、魚買い足してくるから。」

よしよしと土井先生と2人できり丸の頭を撫でてやれば、えっぐえっぐと泣きながらも「はあい」と返事を返してくる。まったく可愛いな。

『やあ、久しぶり。乱太郎、しんべヱ。』
「「蓮夜さん!お久しぶりでーす!!」」

おやまあ、しんべヱまた太ったんじゃないか?すると、同じ事を土井先生に言われましたと頬を染めて照れながらしんべヱは答えた。可愛いけど照れてる場合じゃないぞ。
食堂のおばちゃんに頼んでしばらくの間は、しんべヱの食事はヘルシーな物にしないと駄目だな。それから、は組のみんなを巻き込んで運動でもさせないと。鬼事なら楽しく動き回れるかな?うん、そうしよう。

「じゃあ、魚買い足しに行ってくるから待っといてくれ。」
『あ、俺が行きますよ。』
「なら、一緒にいこうか。」

今日は奥さんが店番だったし蓮夜がいるとたぶんまけてくれるしね、と土井先生が呟いた。なんだそれ。俺、魚屋の奥さんに何かしたっけ。
そんな俺を見て土井先生に、男冥利に尽きてるってことだよと笑われた。なんとなく分かった。

きり丸達に留守番をお願いして、魚屋に向かう。

また買いに来たの買い、と奥さんがからから笑いながら二尾用意してくれた。土井先生の言うとおり、おまけだと言って奥さんが作ったあらの煮付けもお裾分けしてもらった。これはきり丸喜ぶな。
ふわり、と女性が好ましく思う笑顔を浮かべてお礼を言えば奥さんは頬を染めた。やっぱり、男冥利に尽きるとはそういうことだったのか。

さすが女性の扱いがうまいと土井先生が苦笑する。
そういう土井先生は、仕事なら女性の扱いは上手いのに、プライベートとなると全く駄目な珍しい人だよね。 モテる容姿なのに勿体ない。

『すっかり日が暮れてしまいましたね。』
「そうだなあ。……あれ?なんか我が家が賑やかだぞ……。」

ただいまと玄関を潜る。
すると家を出た際には居なかったはずの、喜三太・虎若・伊助・三木ヱ門・三治郎・兵太夫・庄左ヱ門・団蔵らに「おかえりなさーい」と出迎えられた。うむ、家の面積に対して人が多すぎやしないか。

「「「*Χ∃ΚΡβ§*ζκΨВДЖ¥‖?β!」」」

間髪入れずにみんなが一斉に喋り出す。いくら、聞き取れるからって三木ヱ門、お前までは組の子達と一緒に捲し立てないでくれよ。年上ならちょっとは待ちなさい。

「よおーし、わかった!どれも重要な話だが、まず一番最初にせねばならないのは………、」
『魚をあと八尾買い足さなきゃ駄目ですね。』
「だな。」

外に出ようとする俺達の足を、ちょっと待ったとみんなが掴んで止めた。悪い悪いそんな顔しないでよ。冗談冗談。
まず急ぐのは庄左ヱ門と団蔵の、タカ丸くんの実家"髪結い所斉藤"が何者かに襲われたという話だな。

2人を連れて家を出れば、みんなが一緒にいくと言って玄関で押し合い詰めあいでわちゃわちゃとしていた。お前達は留守番してろ、という土井先生の言葉にぶーぶー文句を垂れていたみんなを静める。

『そうだ兵太夫。これでさ、みんなの分の魚とか米とか買い足しといてよ。せっかく楽しみにしてた夕飯なのに、このままじゃきり丸が不貞腐れちゃうからさ。』

一番近くにいた兵太夫にこそっとお金を握らせた。お願いねと頼めば、しょうがないですねと笑いながら答えてくれた兵太夫の頭を撫でる。
よし、これできり丸の機嫌は治るはず。



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